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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
「…お母様…」
喜久子は青山の頬に貌を寄せ、幼子にするように額を優しく合わせた。
「…貴方は天使みたいに可愛らしくて素直で利発で良い子でね…。私にとてもなついてくれて…。ナニーでは寝付かなくて、よく私のベッドに潜り込んで来たわね。
何年かしたら本当の子どもではないことなんて、私自身が忘れてしまったわ。
…史郎さん。貴方を育てさせてくれてありがとう…」
「…お母様…」
青山は眼に光るものを浮かべながら、喜久子の手を握りしめた。
「…私のお母様は貴女だけです…。貴女の息子で良かった…」

…そして、勇気を出して告白をした。
「…お母様にお伝えしなくてはならないことがあります。私は…同性愛者です。お母様に妻を紹介することも、孫を抱かせて差し上げることもできません。
お母様がもし、私のセクシャリティで悩まれたり悲しまれたら…それが一番辛いのです」

喜久子はまるで真夏の雪景色を見るかのような驚いた表情をしたが…やがてすぐにまた菜の花畑に降り注ぐ太陽のような笑みを見せた。
「まあまあ…。そうなの…でも…」
喜久子はそのふっくらとした指で優しく青山の頬をなぞった。
「…こんなハンサムな息子をお嫁様に取られるのもちょっと悔しいから、良かったわ」
そうして二人は二人だけの秘密を共有するかのように小さく笑い、愛情を込めて抱擁しあったのだ。
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