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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
「…母は今、伊豆の別荘でのんびりと暮らしているよ。帰国して母に会うのが何よりの楽しみなんだ。…だいぶ耳は遠くなったが、私の声は遠く離れていても聴こえるそうだよ」
「…へえ…。愛人の子を無邪気に育てあげるなんて…貴方に良く似た変わったお母様ですね」
皮肉めいた口調で感想を漏らすが、そこに冷たさはなかった。
…やや眩しげな眼差しが青山を捉える。
「…そう。私の博愛主義は母譲りなのだろう。私は母のような女性に巡り会えたら、結婚しても良いと思っていた。…けれど残念ながら母のようなひとはいなかったよ…」
「…お母様は美人だったんですか?」
青山はにこにこしながら首を振る。
「ふわふわのマシュマロみたいに太ったひとだ。お世辞にも美人とは言えないだろうな。ふっくらした頬に出来るえくぼが可愛らしくてね…私には誰よりも美しく見えるよ、今もね」
紳一郎は呆れたように肩を竦める。
「貴方はやっぱり変わった方だ。…けれど…」
最後は優しく言い添えた。
「…貴方は幸せなひとですね…」
青山はゆっくりと脚を組み替える。
そして大切な子どもに諭すように続ける。
「…私が言いたいのは、血の繋がりなど余り意味がないということさ。…蘭子さんは君の母だが、君ではない。君は君だ。蘭子さんに必要以上囚われることはないのだよ。…君は自由だ」
紳一郎は美しい眉を顰めた。
「…自由…?」
「そう。自由だ。君はもっと身も心も解き放たれて、柔らかくなっていいんだ」
青山は立ち上がり、紳一郎の傍らに回り込んだ。
そしてその絹のように滑らかな美しい指先で紳一郎の顎を持ち上げる。
「…君は自由だ。…何にでもなれる。何をしても…どこに行ってもいいんだ…」
青山の切れ長の瞳の奥は夜の闇より深いしっとりとした黒色で、紳一郎は魅入られるように見つめ返す。
「…自由…?」
「…そう…。自由に生きて、自由に愛し合うんだ…。
…君を愛でる男たちと…」
…青山の声は…どうしてこんなにも心地よく、媚薬のように脳髄を痺れさせるのだろう…。
しなやかな手が紳一郎の貌を覆い、引き寄せる。
…甘いアルコールの薫り…。
催眠術にかかったかのように、瞼が重くなる…。
男のしっとりとしたやや厚めの唇が紳一郎の柔らかな唇に優しく重ねられる。
「…あ…っ…」
「…好きだよ、紳一郎くん…」
青山の意外なほどの熱を帯びた低い囁きが、鼓膜を震わせる。
「…へえ…。愛人の子を無邪気に育てあげるなんて…貴方に良く似た変わったお母様ですね」
皮肉めいた口調で感想を漏らすが、そこに冷たさはなかった。
…やや眩しげな眼差しが青山を捉える。
「…そう。私の博愛主義は母譲りなのだろう。私は母のような女性に巡り会えたら、結婚しても良いと思っていた。…けれど残念ながら母のようなひとはいなかったよ…」
「…お母様は美人だったんですか?」
青山はにこにこしながら首を振る。
「ふわふわのマシュマロみたいに太ったひとだ。お世辞にも美人とは言えないだろうな。ふっくらした頬に出来るえくぼが可愛らしくてね…私には誰よりも美しく見えるよ、今もね」
紳一郎は呆れたように肩を竦める。
「貴方はやっぱり変わった方だ。…けれど…」
最後は優しく言い添えた。
「…貴方は幸せなひとですね…」
青山はゆっくりと脚を組み替える。
そして大切な子どもに諭すように続ける。
「…私が言いたいのは、血の繋がりなど余り意味がないということさ。…蘭子さんは君の母だが、君ではない。君は君だ。蘭子さんに必要以上囚われることはないのだよ。…君は自由だ」
紳一郎は美しい眉を顰めた。
「…自由…?」
「そう。自由だ。君はもっと身も心も解き放たれて、柔らかくなっていいんだ」
青山は立ち上がり、紳一郎の傍らに回り込んだ。
そしてその絹のように滑らかな美しい指先で紳一郎の顎を持ち上げる。
「…君は自由だ。…何にでもなれる。何をしても…どこに行ってもいいんだ…」
青山の切れ長の瞳の奥は夜の闇より深いしっとりとした黒色で、紳一郎は魅入られるように見つめ返す。
「…自由…?」
「…そう…。自由に生きて、自由に愛し合うんだ…。
…君を愛でる男たちと…」
…青山の声は…どうしてこんなにも心地よく、媚薬のように脳髄を痺れさせるのだろう…。
しなやかな手が紳一郎の貌を覆い、引き寄せる。
…甘いアルコールの薫り…。
催眠術にかかったかのように、瞼が重くなる…。
男のしっとりとしたやや厚めの唇が紳一郎の柔らかな唇に優しく重ねられる。
「…あ…っ…」
「…好きだよ、紳一郎くん…」
青山の意外なほどの熱を帯びた低い囁きが、鼓膜を震わせる。