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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白

十市は日本人離れした堂々たる体躯を備えた野性味溢れる顔立ちの寡黙な森番だった。
父親の森番が出て行ったのが彼が15の時というから、随分老成した子どもだったのだろう。
公彦が初めて十市を見た時には、既に大人の男のような体格と容姿と佇まいだったのだ。
十市は一見、ラテン系ヨーロッパ人ではないかと思うほど彫りが深く、彫刻で刻んだような顔立ちをしていた。
公彦は紳一郎の生物学上の父親だという森番を見たことがないが、十市を見て、彼の父親もこのように息を飲むような迫力と、美しい野生動物に似たしなやかさを併せ持つ男なのではないかとふと思った。
十市は決して出しゃばらないし、媚びも売らない。
仕事は完璧にこなすし、他のものが嫌がるような重労働の仕事も文句も言わずに黙々とこなす。
取っつきづらいがその分、他人に落ち着いた信頼感を与える男だった。
精悍で男らしく整った容姿と逞しさから十市は、使用人のメイドや果ては屋敷を訪れる色好みな貴婦人達から恋心を抱かれることもたまさかではなかった。
しかし十市は、驚くべきストイックさでそれらを受け流していた。
そんな十市を公彦は、密かに一目置いていたのだ。
だが、気がかりが一つだけあった。
紳一郎の十市に対する傾倒の深さであった。
幼い紳一郎は十市を兄のように慕い、会える時は彼のそばから片時も離れなかった。
十市も寡黙ながら紳一郎に対しては誰よりも慈しみ深く接していた。
紳一郎はまだ自分の出生の秘密を知らない。
しかし十市は、恐らくは父親の森番に紳一郎が自分の腹違いの兄弟であることを聞かされていたに違いない。
いつ、十市がそのことを紳一郎に告白するのか…考えると公彦は心配でたまらなかった。
紳一郎が真実を知る前に…なんとか二人を遠ざけなければ…と思案していた矢先…。
その出来事は起こった。
紳一郎が14歳の夏のある朝のことであった。
紳一郎に遅れること数日後…。
早朝、軽井沢の別荘に着いた公彦は家政婦から紳一郎が十市の山小屋から帰宅しないことを知らされた。
嫌な予感が支配する中、公彦は十市の山小屋に駆けつけた。
…そして、窓硝子越しに驚愕の光景を目の当たりにしたのだった。
…山小屋の粗末なベッドの中で、十市と紳一郎は一糸纏わぬ姿で抱き合い、眠っていたのだ。
父親の森番が出て行ったのが彼が15の時というから、随分老成した子どもだったのだろう。
公彦が初めて十市を見た時には、既に大人の男のような体格と容姿と佇まいだったのだ。
十市は一見、ラテン系ヨーロッパ人ではないかと思うほど彫りが深く、彫刻で刻んだような顔立ちをしていた。
公彦は紳一郎の生物学上の父親だという森番を見たことがないが、十市を見て、彼の父親もこのように息を飲むような迫力と、美しい野生動物に似たしなやかさを併せ持つ男なのではないかとふと思った。
十市は決して出しゃばらないし、媚びも売らない。
仕事は完璧にこなすし、他のものが嫌がるような重労働の仕事も文句も言わずに黙々とこなす。
取っつきづらいがその分、他人に落ち着いた信頼感を与える男だった。
精悍で男らしく整った容姿と逞しさから十市は、使用人のメイドや果ては屋敷を訪れる色好みな貴婦人達から恋心を抱かれることもたまさかではなかった。
しかし十市は、驚くべきストイックさでそれらを受け流していた。
そんな十市を公彦は、密かに一目置いていたのだ。
だが、気がかりが一つだけあった。
紳一郎の十市に対する傾倒の深さであった。
幼い紳一郎は十市を兄のように慕い、会える時は彼のそばから片時も離れなかった。
十市も寡黙ながら紳一郎に対しては誰よりも慈しみ深く接していた。
紳一郎はまだ自分の出生の秘密を知らない。
しかし十市は、恐らくは父親の森番に紳一郎が自分の腹違いの兄弟であることを聞かされていたに違いない。
いつ、十市がそのことを紳一郎に告白するのか…考えると公彦は心配でたまらなかった。
紳一郎が真実を知る前に…なんとか二人を遠ざけなければ…と思案していた矢先…。
その出来事は起こった。
紳一郎が14歳の夏のある朝のことであった。
紳一郎に遅れること数日後…。
早朝、軽井沢の別荘に着いた公彦は家政婦から紳一郎が十市の山小屋から帰宅しないことを知らされた。
嫌な予感が支配する中、公彦は十市の山小屋に駆けつけた。
…そして、窓硝子越しに驚愕の光景を目の当たりにしたのだった。
…山小屋の粗末なベッドの中で、十市と紳一郎は一糸纏わぬ姿で抱き合い、眠っていたのだ。

