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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白

公彦は心臓が止まるほどの驚きを感じつつも、どこか起こるべくして起こった出来事に思えてならない自分に気づく。
同時に抑え難い怒りが身体を覆い尽くし、扉へ脚を踏み出した。
静かに扉を開ける。
紳一郎に気づかれてはならないからだ。
直ぐに目を覚ましたのは十市であった。
彼はさして慌てる風もなく逞しい褐色の上半身を起こした。
公彦は怒りを押し殺した声で伝えた。
「…服を着て外に出ろ。紳一郎は起こすな」
こんな乱暴な物言いをしたのは生まれて初めてだった。
ややもして十市は現れた。
黒いワークパンツに枯葉色の粗末な作業シャツ姿…。
こんな質素な服装にも関わらず、男はこの森の王者の如く悠然と存在していた。
…この男が紳一郎を抱いたのか…。
自分でも理解できない理不尽な怒りとも嫉妬とも付かぬ感情に襲われる。
「…誤解があったらいけない。お前の口から事実を聞きたい。…何をしていた」
公彦は常に貴族たれとの教育を受けて来た。
例え使用人に対してでもぞんざいな偉そうな態度を取るのは卑しい人間がすることだ。
冷静に品位を保って話し合うことが大切だ。
議員でもある彼の第一信条であった。
十市は彫りの深い澄んだ闇色の眼差しを瞬きもせずに公彦に当てた。
そして低い声で謝罪した。
「…すみません。旦那様。…俺は、紳一郎様を愛しています」
予想外の言葉に公彦の頭の中は真っ白になる。
…愛しているだと?
この森番は何を血迷ったことを言っているのだ…!
相手は血を分けた異母兄弟だ。
鬼畜にも劣る行為をしながら、愛しているなどとぬけぬけと…!
公彦はずかずかと男に近づくと、いきなり拳を奮った。
頑強な男は地面に倒れることはなく、ぐらりと身体を揺らしただけであった。
生まれて初めて他人を殴った公彦はそのことに激しいショックを受ける。
人を殴ると自分の拳も痛いのだと初めて知った。
「…お前は…!…自分がしたことと言っている意味が分かっているのか⁈」
押し殺した声で詰め寄る公彦に十市は猛然と跪き、土下座をする。
「分かっています。紳一郎様は鷹司家の坊ちゃんで、貴族で尊い方です。俺みたいなしがない森番が愛していい人ではありません。でも、愛しています。…もう二度とこんなことはしません。紳一郎様にも旦那様にも迷惑はかけません。どうかこのまま紳一郎様のそばで働くことだけを許してください。お願いします」
同時に抑え難い怒りが身体を覆い尽くし、扉へ脚を踏み出した。
静かに扉を開ける。
紳一郎に気づかれてはならないからだ。
直ぐに目を覚ましたのは十市であった。
彼はさして慌てる風もなく逞しい褐色の上半身を起こした。
公彦は怒りを押し殺した声で伝えた。
「…服を着て外に出ろ。紳一郎は起こすな」
こんな乱暴な物言いをしたのは生まれて初めてだった。
ややもして十市は現れた。
黒いワークパンツに枯葉色の粗末な作業シャツ姿…。
こんな質素な服装にも関わらず、男はこの森の王者の如く悠然と存在していた。
…この男が紳一郎を抱いたのか…。
自分でも理解できない理不尽な怒りとも嫉妬とも付かぬ感情に襲われる。
「…誤解があったらいけない。お前の口から事実を聞きたい。…何をしていた」
公彦は常に貴族たれとの教育を受けて来た。
例え使用人に対してでもぞんざいな偉そうな態度を取るのは卑しい人間がすることだ。
冷静に品位を保って話し合うことが大切だ。
議員でもある彼の第一信条であった。
十市は彫りの深い澄んだ闇色の眼差しを瞬きもせずに公彦に当てた。
そして低い声で謝罪した。
「…すみません。旦那様。…俺は、紳一郎様を愛しています」
予想外の言葉に公彦の頭の中は真っ白になる。
…愛しているだと?
この森番は何を血迷ったことを言っているのだ…!
相手は血を分けた異母兄弟だ。
鬼畜にも劣る行為をしながら、愛しているなどとぬけぬけと…!
公彦はずかずかと男に近づくと、いきなり拳を奮った。
頑強な男は地面に倒れることはなく、ぐらりと身体を揺らしただけであった。
生まれて初めて他人を殴った公彦はそのことに激しいショックを受ける。
人を殴ると自分の拳も痛いのだと初めて知った。
「…お前は…!…自分がしたことと言っている意味が分かっているのか⁈」
押し殺した声で詰め寄る公彦に十市は猛然と跪き、土下座をする。
「分かっています。紳一郎様は鷹司家の坊ちゃんで、貴族で尊い方です。俺みたいなしがない森番が愛していい人ではありません。でも、愛しています。…もう二度とこんなことはしません。紳一郎様にも旦那様にも迷惑はかけません。どうかこのまま紳一郎様のそばで働くことだけを許してください。お願いします」

