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この香りで……。
第25章 警察署
 午後6時すぎ、奈々葉と里井はマンション近くの三角公園のベンチに腰掛けていた。ポツポツと街灯が点き始めた。子供の遊具のある程度の公園のせいか人影は見えない。
 
「なあ、ところで宮崎、お前さあ、なんであの時、あんな所にいたんだ?」
 
「あんな所……?」
 
「社の屋上で……。あの日、坂村と何かあったのか?」
 
「イヤならいいぞ。別に言わなくても……」
 
 奈々葉は首を横に振った。
 
「あの日、家に帰ったら……」
 
 奈々葉は、美希が夫の信也と自宅での不倫を見てしまった事と、それが原因で家を飛び出した事を洗いざらい里井に打ち明けた。
 
「…………それで、社の屋上に……?」
 
「はい……私、部長に腕を捕まれて、気がついたら屋上で……」
 
「………………辛かったな」
 
「辛いし、あの真面目な夫《ひと》が、っていう驚きと、それが親友の……」と奈々葉は声を詰まらせて付け足す。
 
「だけど……」
 
「うん……」
 
「美希も夫も……責められない。私のせい。全部、私が悪いんだから……」
 
「宮崎……お前なあ、やっぱ……」
 
「あ……」
 
 里井に肩を抱き寄せられた。こらえていたものが溢れそうになる。
 
「奈々葉、泣きたいときは泣け。ひとりで悩まねえで、俺に相談しろ。いいか? 勝手に死ぬな! これは俺の……里井航のお願いだ」
 
 奈々葉は里井の胸の中で声を上げて泣いた。
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