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この香りで……。
第25章 警察署
 二日後の午前六時すぎ、里井の携帯がけたたましく鳴った。
 
「ああ、洋《よう》……いつもすまんな。……じゃあ、今から向かうよ。うん……あとでな……」
 
「……部長……?」
 
 ――洋さんって……。
 
「さあ、着換えて出かけるべ、宮崎……」
 
「え、どこへ……?」「☓☓警察。坂村の接見禁止が解除されたんだと……」
 
 奈々葉と里井は☓☓警察にタクシーで向かう。

 奈々葉たちは警察署の応接室に通された。八畳ほどのその部屋には手前に布張りの三人掛けと二人掛けの長椅子が向かい合わせにあり、それを挟んでテーブルがある。そして、壁にはスローガンが書いてあるポスターが貼られている。
 
 奈々葉と里井は三人掛けの椅子に腰を下ろした。
 
 コンコンと音がして、ドアが開く。黒いアタッシェケースを持った背が高い男が部屋に入って来た。年齢は四十五の里井とさほど変わらないように見える。

「遅れてすみません」
 
 高級感のあるビジネススーツの襟元に金バッジがキラリと光った。男は里井に手のひらを見せる。
 
 ――弁護士さん?
 
 奈々葉は男から名刺を受け取る。
 
「里井洋法律事務所……?」
 
「里井って……」
 
 奈々葉は里井に目をやってから洋に目をやる。
 
「ああ……。弟だ。俺のな……」
 
「弁護士さんだったんですか。部長の弟さん……」
 
「……言ってなかったか?」
 
「言ってませんでした」
 
「似てませんね。弟さん……」

 里井の顔と洋の顔を見比べた。洋は里井に似ていて、小さなレンズの奥の目元は無表情だが、八重歯のある口元が人懐こい人柄を感じさせる。
 
 
「よけいなお世話だ」
 
 洋が咳払いした。
 
「兄貴、……坂村美希さんのことだけど……デリケートなことも含んだことだから……」
 
「……ああ、分かってる」
 
 コンコンと応接室のドアが鳴った。
 
「え……、里井さん、接見できますので、どうぞ」
 
 と、制服の若い女性警官が手招きした。
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