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この香りで……。
第25章 警察署
 ☓☓警察から二人は歩いて近くの駅に向かった。
 
「……あの、部長……?」
 
「ん、なんだ?」
 
「すみません、私ばかり美希と話して……」
 
「ああ、良かったじゃねえか。アイツ元気そうで……」
 
「ハイ、だけど……、部長も聞きたいことが……」
 
「ああ、俺が心配だったのはさ、親友のお前らがいがみ合うことだべ」と里井が言ったあと「世間の風当たり、辛れえと思うけど、俺らが心のケアしねえといけねえな。坂村の……」
 
「ハイ……」と奈々葉は里井と肩を寄せて、手をつないだ。手のひらから里井の温もりが伝わる。
 
「宮崎、俺、社に寄ってくけど、お前はどうする?」
 
「あ、私もちょっと寄りたいところが……」
 
「じゃあ、宮崎、気いつけてな」

「ハイ、部長も……」

「おう……」
 
 :
 
 奈々葉は自宅のマンションのエントランスホールにいた。
 
 インターホンを押してみる。
 
 返事はなかった。
 
 :
 
 玄関ドアをそっと開く。胸が高鳴った。身体が震え、胃の奥から何かがこみ上げた。
 
 チリひとつない冷たい部屋。
 
 寝室のドアを開く。
 
 シーツが全て替えられたベッド。臭いまで違うような気がした。
 
 このベッドで全裸で信也が美希と愛し合っていた。
 
『ああ……挿ってるぅ……あん……信也のぶっといのが美希のオマ☓コに突き刺さってる』と言う声が奈々葉の耳の奥でリピートする。
 
 気がつくと泣いていた。奈々葉は口元を抑えてむせび泣いた。
 
 :
 
 緑色の文字で書かれた紙がドレッサーの上にあった。
 
 ――離婚届。
 
 離婚届には信也の名が埋められていた。奈々葉もそこに自分の名を埋めてバッグに入れ、薬指の指輪をドレッサーの上に置いた。
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