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この香りで……。
第9章 呼んでる。
十分ほどして、奈々葉は部長室の扉を叩いた。手にコーヒーの入ったポットと一組のコーヒーカップを持って……。
「あの……」
奈々葉は里井のデスクにソーサーとカップを置き、ポットのコーヒーを注ぐ。
コーヒーの香りが部屋の中に広がった。
「ホント、ホントにインスタントですよ? 熱いので気を付けてくださいね……」
ズ、ズ、ズ……。
里井がデスクの角に腰を掛け、黙ってコーヒーを啜る。
「ああ、これ、これ……」
里井がコーヒーカップを覗き込む。
「宮崎のコーヒーさあ、俺、元気出るんだよ。ほら……お前もひ一口……」
里井がまたコーヒーを啜って、奈々葉にカップを手渡す。
――これって間接キス?
ズズズ……。
奈々葉もコーヒーを啜る。
――きゃあ!
「お前もちっとは元気になっただろ?」
「えっ……?」
「よかったじゃん。宮崎、お前この部屋に入ったとき、目は腫れてっし、顔色わりーしさ……」
里井の顔が滲んで見えた。里井の大きな手のひらが奈々葉の頭を包んで、撫でる。
「部長……?」
「これじゃあ、セクハラだよな……。髪もバサバサにしちまったし……」
奈々葉が顔を左右に振る。また、涙でコーヒーカップが滲んだ。
「部長、私……部長が……部長を……」
奈々葉は里井の腕を引き、彼を抱き締めた。
――私が部長を元気にしてあげたい。