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この香りで……。
第10章 発熱

 眠れなかった。それはコーヒーを飲んだからではなく、里井との昼間の出来事のせいだ。しかし、里井が口を付けたカップで飲んだコーヒーの味は舞い上がって覚えていなかった。

 ――きゃああ……。

 奈々葉は自分のマクラを抱き締めた。寝息を立てる信也の横で……。

 ラインのメッセージを知らせる通知音が軽やかに鳴る。

 美希からだ。

 美希『あれから、どうだった?』

 奈々葉『美希、部長、呼んでなかったよ』

 美希『えっ、ホント?』

 奈々葉『やってくれたな!』

 美希『怒った?』

 奈々葉『ありがと……』

 美希『どゆこと?』

 奈々葉『じゃあ、また、明日話す』
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