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この香りで……。
第10章 発熱
 午後三時。インターホンのチャイムが鳴った。

 解熱剤が効いたせいか、身体が少し軽い。

 奈々葉は大きく深呼吸してインターホンの受話器を取る。小さい液晶がボンヤリと画像を映し出す。

 スーツ姿で、一見真面目そうなメガネの男。里井だ。

「はい……」

「あのう……私、○☓情報サービスの里井と申します……」

 いつもの里井の声に比べて、更に落ち着いた低い声だ。

「あ、はい、今、開けますから……」

 奈々葉は玄関の鍵を開けた。

「どうも……で、坂村に聞いたんだけどさ、宮崎、お前、大丈夫か?」

 無表情な目が奈々葉を真っ直ぐに見て、彼の顔が目のアップになる。

「えっ……ぶ、部長? 私のカゼ……」

 奈々葉は子猫のように首をすくめる。

 冷たい手のひらに前髪が上げられた。

「どれ……」

「えっと……伝染っちゃいま……」

 里井の額が奈々葉の額に触れる。冷たい額――。

「あっ……」

――きゃあ、部長と……。

 耳たぶに熱を帯びる。

 ドクン、ドクン……自分の心臓の音――。

「……うん、熱、まだちょっとあるなあ。無理すんな」

「あ……ハイ……」




 その夜、奈々葉は三十八度の熱を出した。
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