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この香りで……。
第18章 夢のあとに……。
「おう……宮崎……ちょっと……ここ、ここ……」

 里井が奈々葉の唇を指差した。

 奈々葉はそれに促されるように声がする方に目をやる。徐々に焦点が合い始める。

「はい……」

 ベッドサイドに目をやった。透明な管がシーツの脇から延びて、フックに吊り下げられた透明な袋に続いている。そこには黄金の色をした液体……。導尿カテーテルという医療用具だ。

「……そこにタオルがあるから、顔洗って来い」

 里井の指が枕元のクローゼットを指差す。

「はい……」

 ――全然、気が付かなかったよ……。

「えっ……? おい、よせ、冗談は……」

 奈々葉が管に沿って手を滑り込ませたのだ。ふわりとした感じが手のひらにあった。

「ふふふ……モルモットみたい……」

 奈々葉が里井の〈モルモット〉と戯れる。だらりとした袋がキュっと固くなって、奈々葉の手のひらの中で再びだらりとなった。溶けたバターのように……。

「…………ほんと、空気読めねえな、宮崎、お前って……」と里井が呆れたように言う。

「…………」

「すまねえな……宮崎……」

 里井が項垂れる。

「部長……?」

「ん……?」

 奈々葉はブラウスの胸のボタンを左手の指で外して、里井の手をそこに導く。

 ブラジャーの生地の中で、里井の大きく冷たい手が奈々葉の胸の膨らみを包む。

 ――分かりますか、私の心臓の音……?

「いいんです……私、好きな男の人と同じ時間を過ごせるだけで幸せです、こうして部長と……」

 奈々葉は里井の腕を抱きしめた。

「すみません、私も……」

「……うん?」

「パチン、って……」

「ああ……」

 里井の手が自分の頬に動いて、奈々葉の手のひらが当たった場所を覆う。

「……ごめんなさい」

「いや、助かったよ…………」

 そして、ありがとう、と里井は消えそうな声で言うと、軽く目を閉じ、ふっと白い歯を見せた。
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