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この香りで……。
第21章 シンデレラ

 声が出なかった。

「……これでは歩き辛いわ」と言ったあと、婦人は植込みに腰を下ろした。自分のバッグからミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。

「少し沁みるけどね……これが結構効くのよ。傷口に……」

 ――えっ?

 足裏がチクリとした。流れるペットボトルの水が足裏を覆う。

「よかった……血は……止まってるわ。すぐ戻るから、これで押さえていてね……」

 婦人は自分のバッグから取り出したガーゼのハンカチを奈々葉に手渡した。婦人の言う通りに傷口を押さえる。




 数分後、婦人が奈々葉の待つ公園に戻ってきた。バッグから白いスニーカーを取り出すと、その踵を奈々葉に向けて揃える。

「これ……履いて……二十ニ半……だったと思うんだけど、娘が若い頃履いてたの……あなた、履けるかしら……」

 奈々葉の足がスニーカーにピッタリと納まる。

「あらあら……シンデレラみたいね……」と、婦人は皺のある顔いっぱいに笑みを浮かべた。

 奈々葉の頬が緩む。

「あなた、笑顔がとても素敵だわ」と婦人の指先が奈々葉の溢れた涙を掬う。
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