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この香りで……。
第22章 医院
「……ごちそうさまでした……」と言うと奈々葉は席を立った。

「あの……靴……大切な靴……ありがとうございました……すぐ、お返しに……あ、コーヒーのお代と……」

 奈々葉は深々と頭を下げる。

 ――どこ行こう……。

「お姉ちゃん……お名前は……」

「……奈々葉……宮崎奈々葉です」

 ――これから……。

「奈々葉ちゃん……頼みがあるの……」

 ――えっ……?

 奈々葉は詠美の目を見た。

「……はい」

「よかったら……お店の番、頼めないかしら……? 二、三日だけ……」

 ――読まれてる。私の心の中……。

「はい……ありがとうございます」

「……とは言っても、お客は僕ら病院を引退した老人クラブみたいなものだがね。ねぇ、詠美ちゃん?」と高木が笑ったあと自分のカップを揺らす。

「はい、はい。コーヒーおかわりね、高木さん?」

 詠美は、ふきんでカップを拭いていた手を止めて、サイフォンにアルコールランプを入れる。
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