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この香りで……。
第23章 眠り姫



 その夜、奈々葉はコーヒーショップの二階の詠美の娘の勉強部屋だったという部屋に通された。

 消毒液の匂いと、所々紙のテープで修繕されたガラスケース。そして、開きかけたクローゼットには少し黄ばんだ白衣が整然と並べられていて、この部屋にはこの建物がかつて病院だったという証が確かにあった。

「ごめんなさいね、片付いてなくて……」

 詠美は肘掛けが付いた椅子を押すと、ギギギと錆びついた音を立てながら部屋の隅へ追いやる。荷物の壁に囲まれた中央に布団が敷かれた。

「……いえ、こちらこそ、ありがとうございます。私なんかのために……」



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