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この香りで……。
第3章 マンション
 眼鏡の奥の無表情な目に光るものが見えた。

 はあ、と里井が大きなため息をつく。

「俺、ダメなんだよ。ガンバれば頑張るほど……空回りすんの……俺、若《わけ》えころは一番だったんだよ?」

 奈々葉は里井の肩を抱きよせた。彼の頬に頬をよせる。チクチクしたヒゲが奈々葉の頬に当たってこそばゆい。

「部長……?」

「ん……?」

「なら、頑張らなければいいじゃないですか? ――ね?」

 奈々葉が彼の耳元で囁いた。

「宮崎……? おめえさあ……」
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