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この香りで……。
第24章 詠美の娘
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奈々葉の腕が何かにすうっと引かれた。
:
――えっ?
ゴーと音を立てる冷たい風が奈々葉の髪をなびかせる。
「えっ、私……」
奈々葉は自分の足元を見た。
「俺たちの会社の屋上だ」
――私、いつの間に……。
里井の声だ。
強く腕を引かれる。
足元に目をやる。
鉄柵を超えていることに気づいた。
奈々葉は自分の足元を見た。赤い褐色の足跡が点々とスタンプのように残る。昼の間に温められたコンクリートはじんわりと暖かさを感じるが、湿気を含んだ風が冷たく奈々葉のスカートの裾を揺らした。
――裸足……。
粒のような車の赤や白のライトたちが光の筋を残して行き来している。陽が落ちたあとの、地上には黒い蟻のような集団が気味が悪いほど蠢いている。
『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
――こ、怖い……。
足がすくんだ。涙が溢れる。
「さあ、一緒に帰ろうか」
――ホントはそうしたいけど……。
「……だけど、私、帰る場所がないの……。だから、ありがとう部長……」
「奈々葉、何言ってんだよ!」
「バイバイ。航さん、大好き……」
奈々葉は下を覗いた。里井に手のひらを見せた。
:
『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
:
「奈々葉っ! 困るんだ……」
――あっ。
里井が奈々葉の腕を引いた。
奈々葉の身体が里井に抱き寄せられる。
「バカヤロー! 奈々葉、お前に何かあると、俺が困るって言ったじゃねえか!」
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奈々葉の腕が何かにすうっと引かれた。
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――えっ?
ゴーと音を立てる冷たい風が奈々葉の髪をなびかせる。
「えっ、私……」
奈々葉は自分の足元を見た。
「俺たちの会社の屋上だ」
――私、いつの間に……。
里井の声だ。
強く腕を引かれる。
足元に目をやる。
鉄柵を超えていることに気づいた。
奈々葉は自分の足元を見た。赤い褐色の足跡が点々とスタンプのように残る。昼の間に温められたコンクリートはじんわりと暖かさを感じるが、湿気を含んだ風が冷たく奈々葉のスカートの裾を揺らした。
――裸足……。
粒のような車の赤や白のライトたちが光の筋を残して行き来している。陽が落ちたあとの、地上には黒い蟻のような集団が気味が悪いほど蠢いている。
『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
――こ、怖い……。
足がすくんだ。涙が溢れる。
「さあ、一緒に帰ろうか」
――ホントはそうしたいけど……。
「……だけど、私、帰る場所がないの……。だから、ありがとう部長……」
「奈々葉、何言ってんだよ!」
「バイバイ。航さん、大好き……」
奈々葉は下を覗いた。里井に手のひらを見せた。
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『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
『ダメ、ダメ……イタイヨ。オチルト、イタイヨ?』
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「奈々葉っ! 困るんだ……」
――あっ。
里井が奈々葉の腕を引いた。
奈々葉の身体が里井に抱き寄せられる。
「バカヤロー! 奈々葉、お前に何かあると、俺が困るって言ったじゃねえか!」
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