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秘密のピアノレッスン
第15章 グラス

「ママ。あのね、これ……ゴミじゃないの……。ピアノ教室の女の子が、まだ字も書けない子が、書いてくれたの」
ママ。
今日はこんな嬉しいことがあったの。
こんなに優しい気持ちをもらえたの。
それを教えたくて、知ってもらいたくて、クッキーを見せようとすると、母はグラスを傾けて、眉を顰めた。
「なんだかそれ、貧乏ったらしいわね。いいからお風呂に入って来なさい」
かあっと顔が熱くなり、わなわなと震えだした。
喉が絞られるように苦しいが、もう、言わずにはいられない。
「…………ママ……」
湯上がりのワインを嗜む母に、震えながら呼び掛ける。
「何よ?」
「ママは……今日何してた?」
母の角度のついた眉が、さらに上がって、まるで鬼のように見える。
唇をぎりっと噛みしめ、自分を奮い立たせて言った。
「く……黒い車の人と……浮気してない?旅行行ったのも、あの人となんでしょ……」
その瞬間。
母の手元にあったグラスが、私の顔めがけて飛んできた。
ワインがびしゃりと顔にかかり、ガンッ、と音がして頭が揺れる。
痛いはずが痛みはなく、代わりにくらくらと眩暈がしてその場に座り込んだ。
「親に向かって何てことを言うの!恩知らず!!」
母は、目を押さえて蹲っている私に大きな声を上げ、コートを取ると、玄関のドアを開けて出て行った。
ママ。
今日はこんな嬉しいことがあったの。
こんなに優しい気持ちをもらえたの。
それを教えたくて、知ってもらいたくて、クッキーを見せようとすると、母はグラスを傾けて、眉を顰めた。
「なんだかそれ、貧乏ったらしいわね。いいからお風呂に入って来なさい」
かあっと顔が熱くなり、わなわなと震えだした。
喉が絞られるように苦しいが、もう、言わずにはいられない。
「…………ママ……」
湯上がりのワインを嗜む母に、震えながら呼び掛ける。
「何よ?」
「ママは……今日何してた?」
母の角度のついた眉が、さらに上がって、まるで鬼のように見える。
唇をぎりっと噛みしめ、自分を奮い立たせて言った。
「く……黒い車の人と……浮気してない?旅行行ったのも、あの人となんでしょ……」
その瞬間。
母の手元にあったグラスが、私の顔めがけて飛んできた。
ワインがびしゃりと顔にかかり、ガンッ、と音がして頭が揺れる。
痛いはずが痛みはなく、代わりにくらくらと眩暈がしてその場に座り込んだ。
「親に向かって何てことを言うの!恩知らず!!」
母は、目を押さえて蹲っている私に大きな声を上げ、コートを取ると、玄関のドアを開けて出て行った。

