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秘密のピアノレッスン
第16章 呪縛から
優しい手に誘われるようにして、涙とともに、ぽろりと言葉が飛び出す。

「ママに……」
「ん?」

先生は、撫でる手を止めて、私に耳を傾ける。

「私は……ママに、言ってはいけないことを言ってしまったの。でも、どうしても我慢できなかったの。私、どうしても……ママを許せない」

「うん……」

先生はそっと壊れ物を抱くようにして、車の中で抱き寄せてきた。
車内の時計は、もうすぐ23時を回ろうとしている。

「……奏馬さん……今日は一緒にいて」

ぎゅうっと先生の胸にすがって、怪我をしていない方の頬をすりつける。
先生の鼓動が伝わってきて、自分の鼓動と同じぐらい激しい。

「…………でも、勝手に連れていくわけには……」

言葉では拒む先生。その先生の唇が頬に降り、私の唇に辿り着いた。
唇の隙間から先生の舌が侵入して、口内のどこも全てなぞられて、舌までもちゅるりと吸い上げられ、うっとりと先生を見上げる。

先生は真剣な顔で、処置してもらった瞼を見つめた。

「痛々しいな。……俺だって許せねぇよ。こんな傷負わせて。親だからって、怪我させてもいいのかよって、言ってやりたいけど……」
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