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秘密のピアノレッスン
第16章 呪縛から

廊下の鏡に映る私の顔は、痛々しいものだった。
泣いた分瞼も腫れて、先生にこんな顔を晒していたのが信じられない。
「荷物、それだけでいいの?」
玄関先で待っていた先生が顔を上げた。
「はい……。連絡先はわからなかったので、明日、母が帰ってきていなければ、祖母の家に行って聞こうかなって……」
「そうだな。電話番号ぐらいはうちの実家に聞けばあると思うけど……今は、もういいかな」
先生は纏めた荷物に手を伸ばし、すんなりと持ち上げる。
「え、あの、自分で持ちますから」
「いいの。このぐらいさせてよ」
エスコートが上手なのは、佳苗先生の教育の賜物だろうか。
最後、靴をはく前に先生が呟いた。
「……手紙、書いて行かなくていい?」
……少しだけ、書き置きしようかと思っていた。
先生に見抜かれていたようで恥ずかしいけれど、学校のノートを鞄から出し、その場で書き上げた。
ママへ
しばらく帰りません。
学校には行くので心配しないでください。
きっと、心配もしないだろうが。
そう書いて、シャープペンシルを置こうとしたけれど……。
思い直して、最後に一文だけ書いてびりりと引きちぎり、框に置いた。
泣いた分瞼も腫れて、先生にこんな顔を晒していたのが信じられない。
「荷物、それだけでいいの?」
玄関先で待っていた先生が顔を上げた。
「はい……。連絡先はわからなかったので、明日、母が帰ってきていなければ、祖母の家に行って聞こうかなって……」
「そうだな。電話番号ぐらいはうちの実家に聞けばあると思うけど……今は、もういいかな」
先生は纏めた荷物に手を伸ばし、すんなりと持ち上げる。
「え、あの、自分で持ちますから」
「いいの。このぐらいさせてよ」
エスコートが上手なのは、佳苗先生の教育の賜物だろうか。
最後、靴をはく前に先生が呟いた。
「……手紙、書いて行かなくていい?」
……少しだけ、書き置きしようかと思っていた。
先生に見抜かれていたようで恥ずかしいけれど、学校のノートを鞄から出し、その場で書き上げた。
ママへ
しばらく帰りません。
学校には行くので心配しないでください。
きっと、心配もしないだろうが。
そう書いて、シャープペンシルを置こうとしたけれど……。
思い直して、最後に一文だけ書いてびりりと引きちぎり、框に置いた。

