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秘密のピアノレッスン
第16章 呪縛から
先生の家に着き、シャワーで簡単に汗を流す。
ゆいちゃんのパパから、長湯はしないでと言われているから、さっと浴びてバスルームから出た。
先生のスウェットを借りて、リビングを覗いたが誰もいない。
……仕事部屋にいるのかなあ。

お邪魔はしてはいけない。
リビングのテーブルに着き、ゆいちゃんのクッキーを取り出して口に入れた。

おいしい。私もこんなの作ってみたいな。
さくさくと食べ進めて、喉が詰まる。

「飲み物……」

洗って置かれていたグラスを見て、足が竦む。
投げつけられた母のワイングラスではないのに、さっきの出来事が呼び醒まされて、心がちぎれそうだ。

母がゴミと呼んだクッキーは、とっても優しい愛の味。
……母は今、どうしているのだろう。
涙が止まらなくて、傷が痛い。

「更紗?……シャワー終わった?」
「…あ、はい」

リビングに先生が入ってきた。慌てて涙を拭う。

「なんで敬語に戻ってるの」
「あ、あはは……なんとなく」
「……俺にまで怯えないでよ」

怯えては……いないのだけど。
先生に嫌われるのが怖いとは思う。

よく見たら、先生はジャージを着ていて、家に駆けつけてくれた時からそうだったのだろう。
レッスンが終わって、シャワーを浴びて寛いでいた時に私の電話が来て、びっくりしただろうな。
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