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秘密のピアノレッスン
第18章 見えていなかったもの
久しぶりに会えた愛しいパパにあんな顔させてしまった――。

悲しみの渦の中、自責の念に駆られるが、今までと違う冷静な自分もいた。
佳苗先生や奏馬さんのことをあんな風に言えるパパは、大好きなパパから随分かけ離れてしまったように思えたのだ。
もしかして、ママもこうしてパパに突き離されて、誰かに縋っていたのかな。考えたくもないけれど――あの黒い車の人に。

先生は今、どうしているんだろう。
会えない間も淡く夢見ていた、くまみたいな優しいパパは、もはや神経質そうな初老の男性にしか見えず、心の中の温かい灯は今静かに消えてしまった。いや、とうの昔に消えていた。私には温かい家庭などなかった。

独りでに顔が歪み、歯を食いしばり、涙がにじむ。
小さく拳を作って目元をふくと、じりじりと傷が痛んだ。

レッスンバッグから先生がくれた携帯を取り出して、先生の番号にかけてみるがつながらない。

「奏馬さん……会いたいよ……」

嘆いても、迎えに来てくれはしない。
泣いても、先生以外誰も慰めてくれはしない。
涙は留まることなく零れ落ちるが、傷の痛みに思い切り泣くこともできず、息を殺し、悲しみが治まるのをひたすらに待った。

しばらくの間そうしていると、こんな状況でも喉が渇く。
私はそろそろと部屋から出て、キッチンまで水を飲みに行くことにした。

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