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秘密のピアノレッスン
第19章 鳥籠
久しぶりに鏡の前に立った。
映るのは泣きはらした醜い顔。どれだけ寂しくても自分で慰める気力すら起きず、ただベッドで泣いている日々。
もう、日本を発つ日まで時間がない。

閉じた目元の傷をそっと指で触れた。
鈍い痛みはほんの少しあるけれど、滲みるような鋭い痛みはもうない。

鏡に映る自分の顔を見ながら、ある考えが浮かんだ。
静かに着替えて、そうっと階段を降りておばあちゃまのいる部屋へと進む。

「おばあちゃま……」
「あら、どうしたの?更紗ちゃん……」

ずっと閉じこもっていた私が出てきたことで、おばあちゃまの顔が喜びを湛えている。

「カナダに経つ前に、傷を見せに病院に行っておきたいの。いい?」

前髪を上げて目元を見せると、おばあちゃまは少し悲しげに頷いた。

「そうね、それがいいわね。付添の者を呼びましょうか」
「そんなのいらないよ。私、一人で行けるから。もう18歳なのよ」

以前のようににっこりと笑ってみせると、おばあちゃまはそれは嬉しそうに私を見つめた。

「そうね、そうね。午前中だし、まだ病院も開いている時間だわ。今のうちに行ってらっしゃいな」

快く送り出してくれたおばあちゃま。
母といろいろあったかもしれないけれど、私を愛してくれていた唯一の人。

……最後までごめんね。


小さなレッスンバッグの中に、わずかな所持金や保険証、繋がらない携帯、拙い絵、くまのキーホルダーを入れて、屋敷を後にした。

おばあちゃま、ごめんね。
もう二度と、この場所には戻らない。
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