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秘密のピアノレッスン
第19章 鳥籠
こんな考えなしの脱走、失敗するかもしれないけれど。
衣笠クリニックに行けば――息子先生がいれば、奏馬さんと繋がれるかもしれない。
でも、確か父と院長は懇意にしているから、ここで失敗すれば全てが終わってしまう。
そんな中でも淡い期待を抱きながら、足早にクリニックに向かったけれど、この日は院長先生の診察日のようだった。
クリニックの前で躊躇すること10分。
もうすぐ診療時間が終わりそうな頃、駐車場に入ってきた車から小さな女の子と男の人が出てきた。
こんなとこにいたら、怪しい人物と思われるかもしれない。
さりげなく背を向けていると、女の子が「あっ」と声を上げた。
「パパー、くまのピアノのおねえちゃん!」
恐る恐る振り向き見てみると、ゆいちゃんと息子先生が歩いてきていた。
「……更紗ちゃん!」
おっとりしたイメージしかなかった息子先生が取り乱しながら駆け寄ってくる。
「すみません、あの、ご迷惑かけるつもりはないのですが、奏馬さんと連絡が取りたくて……」
「うん、うん。わかった」
やはり何か事情を奏馬さんに聞いているのか、拙く言葉少ない説明でも察してくれて、すぐさま奏馬さんに連絡を取ってくれた。
その横で、ゆいちゃんが不思議そうな瞳で私を見上げる。
「おねえちゃん、泣いてるの?」
「あ……泣いてるように見えるかな?」
「うん……すごくかなしそう……」
ゆいちゃんが本当に悲しそうな顔をするから、空元気を出して笑ったら、ゆいちゃんも笑顔を見せてくれた。
笑いかけたら、同じように返してくれるんだ。そんなことも知らなかった。
……いや、忘れていた。
こんな純真で無垢な笑顔を見せられたら、どんなものからも守ってあげたくなるものなのだと。
「更紗ちゃん、これから奏馬が迎えに来るから、少しだけここで待っていて」
「はい。本当にご迷惑おかけして、申し訳ありません……」
奏馬さんは、私を忘れてはいなかった。
深く頭を下げたら、ゆいちゃんに頭を撫でられて息子先生が笑っていた。
なんて優しい空気なんだろう。今度は、温かさに涙が出てきそうになった。
衣笠クリニックに行けば――息子先生がいれば、奏馬さんと繋がれるかもしれない。
でも、確か父と院長は懇意にしているから、ここで失敗すれば全てが終わってしまう。
そんな中でも淡い期待を抱きながら、足早にクリニックに向かったけれど、この日は院長先生の診察日のようだった。
クリニックの前で躊躇すること10分。
もうすぐ診療時間が終わりそうな頃、駐車場に入ってきた車から小さな女の子と男の人が出てきた。
こんなとこにいたら、怪しい人物と思われるかもしれない。
さりげなく背を向けていると、女の子が「あっ」と声を上げた。
「パパー、くまのピアノのおねえちゃん!」
恐る恐る振り向き見てみると、ゆいちゃんと息子先生が歩いてきていた。
「……更紗ちゃん!」
おっとりしたイメージしかなかった息子先生が取り乱しながら駆け寄ってくる。
「すみません、あの、ご迷惑かけるつもりはないのですが、奏馬さんと連絡が取りたくて……」
「うん、うん。わかった」
やはり何か事情を奏馬さんに聞いているのか、拙く言葉少ない説明でも察してくれて、すぐさま奏馬さんに連絡を取ってくれた。
その横で、ゆいちゃんが不思議そうな瞳で私を見上げる。
「おねえちゃん、泣いてるの?」
「あ……泣いてるように見えるかな?」
「うん……すごくかなしそう……」
ゆいちゃんが本当に悲しそうな顔をするから、空元気を出して笑ったら、ゆいちゃんも笑顔を見せてくれた。
笑いかけたら、同じように返してくれるんだ。そんなことも知らなかった。
……いや、忘れていた。
こんな純真で無垢な笑顔を見せられたら、どんなものからも守ってあげたくなるものなのだと。
「更紗ちゃん、これから奏馬が迎えに来るから、少しだけここで待っていて」
「はい。本当にご迷惑おかけして、申し訳ありません……」
奏馬さんは、私を忘れてはいなかった。
深く頭を下げたら、ゆいちゃんに頭を撫でられて息子先生が笑っていた。
なんて優しい空気なんだろう。今度は、温かさに涙が出てきそうになった。