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秘密のピアノレッスン
第19章 鳥籠
「今、荷造りしていたんだ。引っ越し先はここから少し遠いんだけど。一緒に来る?」
「い、行くっ。奏馬さんと一緒なら、どこでも……私……」

奏馬さんは満足そうに微笑み、続けた。

「どこか寄りたいところある?」
「寄ってもいいの?」
「いいよ。急いだ方がいいと思うけど、少しなら」


一人では寄れないけれど、奏馬さんと一緒なら。
久しぶりに帰った家は、母の荷物がすっきりとなくなっていて、冬の日、私が残したメモが落ちていた。


「産まなきゃよかったのに」


そう書き殴った痛々しい文章。
複雑な思いで見ていると、その下に何か文字があるのを見つけた。小さい、薄い文字で。

「あなたが生まれて幸せでした。」

まぎれもない、母の字で書かれていた。

まただ。
また……人の気も知らず、勝手なことを言う。

嘘つき。
ママなんて、大嫌い。
大嫌いだけど……

「……ママ……」

口が歪む。必死に食いしばって涙を堪え、メモ紙を握りしめる。
ママも、パパも、憎らしい。けれど、やっぱり愛されたかったと今も思う。
自分が望む形ではなかったけれど、ほんの一握りの愛情はあったかもしれない。
気のせいでもいい。少なくとも、このメモ紙には、この文字の上だけには愛がある。

ママ。今は会えないけれど。
恨んでいないと言えば嘘になるけれど、最後まで、自分勝手なママ。

一生恨んでやりたいぐらい大嫌いだけど、本当は大好き。
いつかそう言える日が来たらいいと、一縷の望みを抱きながら、バッグの中から紙切れを出した。

子供のころに描いたあの絵に、言葉を足した。

「元気でね」

その一言だけを書き、玄関に置いて出た。
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