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秘密のピアノレッスン
第9章 深み

ピアノの隣にツリーの箱を置き、まずレッスンを始める。
だんだんと様になってきた愛の夢は、プロの演奏には程遠いけれど、先生のことを想いながら弾くと、音が変わるように思える。
「この曲の歌詞って知ってる?」
「あ、いえ……」
「お墓の前に立って嘆く日が来る前に、愛を注ぎなさい。醜い言葉で、取り返しがつかなくなることもある。……って歌。元々は、リストがソプラノの独唱歌として作ったんだ。それをピアノ用にしたのがこれ。そういう背景を知ってたら、もっと深みが出るかも」
「甘いだけじゃないんですね……」
「明るい内容ではないかな。でも、僕は好きだけど」
先生の、眼鏡の奥の瞳は、この曲への愛で満ちている。
「もう一回弾いてみて」
「はい」
左手の人差し指で、ミのフラットを。
そして、とろけるような旋律を、淀みなく弾いてゆく。
まだ、死とか、そんなのはピンとこないけれど……。
後悔しないように、心を尽くして愛したい思いはある。
弾き終えると、先生は満足いった顔ではなかったけれど、
「ま、今はこれでいいでしょう」と、ほんの少し微笑んだ。
だんだんと様になってきた愛の夢は、プロの演奏には程遠いけれど、先生のことを想いながら弾くと、音が変わるように思える。
「この曲の歌詞って知ってる?」
「あ、いえ……」
「お墓の前に立って嘆く日が来る前に、愛を注ぎなさい。醜い言葉で、取り返しがつかなくなることもある。……って歌。元々は、リストがソプラノの独唱歌として作ったんだ。それをピアノ用にしたのがこれ。そういう背景を知ってたら、もっと深みが出るかも」
「甘いだけじゃないんですね……」
「明るい内容ではないかな。でも、僕は好きだけど」
先生の、眼鏡の奥の瞳は、この曲への愛で満ちている。
「もう一回弾いてみて」
「はい」
左手の人差し指で、ミのフラットを。
そして、とろけるような旋律を、淀みなく弾いてゆく。
まだ、死とか、そんなのはピンとこないけれど……。
後悔しないように、心を尽くして愛したい思いはある。
弾き終えると、先生は満足いった顔ではなかったけれど、
「ま、今はこれでいいでしょう」と、ほんの少し微笑んだ。

