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秘密のピアノレッスン
第9章 深み
「先生が喜んでくれてよかったです。いい誕生日になりそうです」
「え? 今日誕生日なの?」
「いえ、明後日ですが……」

明後日の土曜日。
私は18歳になる。

薄暗い部屋で、ツリーのライトが点滅し続けている。
そんな部屋に、ふたりきり……。

ふと意識してしまって、鼓動が速くなった。
先生も何も言わなくなってしまって、この胸の音が聞こえないでくれたらと願いながら、小さく呼吸をする。

もうすぐ誕生日だって言われても、先生困るよね。

「すみません、余計な話でしたね」
「何でそんなこと言うの。僕はそんなこと全然思ってない」
「でも……」
「上、向いて」

先生の指が、私の唇を何度もなぞる。すうっと、力を入れず何度も……
そして、下唇の真ん中を親指で触れた。

「……先生……」
「うん……」

先生のトレードマークとも言える黒縁眼鏡。その奥は、少し熱を帯びて……。
形のいい指で、眼鏡を外してグランドピアノに置いた。
漆黒の瞳が、胸の奥の芯を捕えて離さない。
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