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秘密のピアノレッスン
第10章 18歳
「手が……きれいだと思って」

あの時と同じように答えたら、先生はお肉のソテーをナイフで切りわけながら答えた。

「『初めて言われたな』」
「ふふっ」

先生も同じ答えを。
でも、眼差しはすごく穏やかだ。

一緒にいるだけで、陽だまりのような温もりを感じる。
先生も同じだといいなと、願わずにはいられない。

食事を終えて二人で片づけを済ませた。

「ケーキもあるんだけど……おなかに入る?」
「い、いえ……今は、ちょっと……」

さっきのケータリングがおいしくてたくさん食べてしまったから、もう入る余地はない。

「僕も一緒。ピアノでも弾いて、腹ごなししようか」
「はい」
「ついでにレッスンして帰る?」
「え……」
「何で『え』なの」

先生が苦笑している。最近、全然ピアノを弾けてないから、危機感が……。
先生はグランドピアノを開けて、トムソン椅子に座った。

「じゃあ、やっぱりこれかな」

少しだけ腕まくりをして、鍵盤の上に両手をそっと置き、指が繊細に動き始める。

流れてきたメロディは、Happy Birthday to You。


ああ……。

先生が紡ぎ出す音は、やっぱり私の音とは全然違って、芯が強いのに優美で甘い。
私もこのぐらい弾けるようになれたら、誰かの心を動かしたりもできるかもしれないのに……。

ママの、心も。
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