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どうか、その声をもう一度
第2章 雨の中、邂逅
◇◆
「内装、好評でしたね。SNSでちらほら拡散してくれてるみたいだし、明後日から楽しみっす」
「そうだな。あとは、あのバイトの子らがどんだけ動けるかって感じか」
「そこは、秀治さんが店長パワーでカバーでしょ。忙しくしてるうちに彼女に振られたら俺と合コン三昧しましょ」
「しねえよ」
つつがなくプレオープンが済み、関係者たちが帰っていった店内は微かにパンとコーヒーの良い香りが残っているような気がした。店内の清掃をしながら口を開いた諒は窓の外の景色を見ながら手を止める。
「どうした?お前はともかく、俺は早く帰れるの今日くらいだろうし、帰りたいんだけど」
「雨、降り始めますよ」
「は?」
窓際に寄って空を見上げる。まだまだ、青い空だ。だが、瞬く間に重たい雲が広がったかと思うと、大粒の雨が降り出した。
「外に出す日替わり用の看板、大丈夫っすかね。オーニングの角度、微妙じゃないっすか」
「雨の日はちょっとひっこめれば平気だろ。今、試しに出してみるか?」
「そうしましょう」
店内の片隅に置かれていた黒板素材の看板を抱えて外に出てみると、雨が降り始めた所為で酷く気温が下がっているように感じた。さすがに制服のシャツと黒いスラックスだけでは寒い。気取った長い黒のサロンも足に纏わりつくだけで熱はくれなかった。
「雪でも降ってくれたらいいっすよね。ほら、もうすぐクリスマスだし。そしたらホワイトクリスマスじゃないですか」
「俺は雪、あんま嬉しくないな」
「島って雪降るんすか?」
「いや、たぶん降んないね」
喋りながら看板の位置を確認していく。当初予定していた位置では、かなり雨が当たることが分かり、ああでもないこうでもないと言いながら看板の位置を模索した。
俺は、島の冬を思い出すことができなくなっていた。長期休みの度に島に帰る彩夏とは違い、俺は高校を卒業して島を出てからただの一度も帰っていなかったのだ。彩夏にはシフト制だから連休は難しいと言ってある。そこに、嘘はない。だが、どうにかこうにか取ろうと思えば取れなくもなかったりする。