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どうか、その声をもう一度
第3章 冬に溶ける憂鬱

「……クリスマス、か」
島にいた頃のクリスマスと言えば、学校の体育館にみんなで集まってのパーティーが当たり前だった。私と絵美子の2人でケーキを作って、10人の同級生たちがそれぞれお菓子や、料理を持ち寄って。集まったって話すことなんていつもとほとんど同じなのに、それでも毎年その日が楽しみで仕方がなかった。
秀治と一緒に暮らすようになってから彼とクリスマスを過ごすことが出来たのは入社1年目の一度きりだ。デートだって数えるほどしかしたことがない。でも、秀治はちゃんと家に帰ってきてくれる。私はそれだけで十分だ。
営業部のフロアに顔を出すと、先輩社員の椎名さんのデスクの周りに数人の男性社員が集まっていた。みんなでパソコンの画面を覗き込んでなにやら話している。椎名さんのデスクは私のデスクの向かいだ。適当に挨拶をして自分のデスクにつこうとすると呼び止められた。
「なあなあ、女の子の意見、聞かせて」
「彼女へのクリスマスプレゼント、とかですか?」
「そうそう。つっても俺じゃなくて、大川だけど。椎名さんはシンプルなネックレス推しなんだけど、俺らはこれ推しなんだよ」
1期上の男性社員に手招きされ、椎名さんのデスクのパソコンを覗き込む。どうやら1年目の大川くんという男性社員が恋人へのプレゼントに悩んでいるらしかった。2種類のネックレスの商品ページを交互に見比べる。現状、多数派らしいネックレスは正直言うとかなりラブリーな感じで贈る相手が社会人女性であれば不向きに見えた。
「私も椎名さんが推してるやつのほうがいいと思う。合わせやすそうだし、プレゼントするのは同い年の子なの?」
ディスプレイから顔を上げ、大川くんに問う。詳しく聞けば、恋人ではなく、友人の妹で、彼は2つ下のその子に密かに片想いしているという。結局あれやこれやと話ながらもネックレスの件は一先ず置いておくことになった。大川くんは私の3つ下だけど、まだまだ初々しくてかわいいなぁ、と思う。
そういえば、初めてクリスマスを2人で過ごした時、秀治もネックレスをプレゼントしてくれた。あの時、秀治もこんな風に悩んだりしたのだろうか。

