この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
どうか、その声をもう一度
第3章 冬に溶ける憂鬱

誰にも取られたくないのだ。その感情が胸の中で膨らむと、いっそ、子供ができれば、と考えてしまう。生命の神秘を彼を振り向かせて、繋ぎとめる道具にしようとしている自分の醜さに苦しくもなる。

秀治の好きな人がどこの誰なのか聞きたいと思ったことは何度もある。一度でいいからその人に会ってみたいと思ったこともある。だけど、未だに聞けずにいる。私がそれを問うことによって彼がその人のことを思い出してしまうのが嫌だったからだ。

「あーあ、私も椎名さんみたいに恋人とラブラブクリスマスしたいな」
「ばか言ってないで仕事しなさい」
「はーい」

返事をしながら見た椎名さんの顔に影が差したように見えた。気のせいだろうか。しばらく経ってからもう一度盗み見た顔は普段通りの顔だ。

短めに整えた黒髪と切れ長の目。ピシッとアイロンがけが施されているであろうシャツ。深いグリーンのネクタイは彼にとても似合っていた。たしか椎名さんも恋人と同棲中だった筈だ。彼のシャツのアイロンがけはその恋人がしているのだろうか。

「こら。仕事しろって言っただろ」
「へへ。すみません」
「なんだよ。俺の顔になんか付いてんの?」
「えっと…ネクタイ素敵だなって思って」
「ありがとう」
「それって彼女さんが選んでくれてるんですか?」
「そうだよ。毎朝、組み合わせてもらうんだ。そうやってさ、些細なことでもコミュニケーション取ってくのが大事かなって思ってるわけ」
「なるほど。参考にします」

椎名さんは恋人との時間をとても大切にしているのだろう。私だって休みの合わない秀治と少しでもコミュニケーションを取りたくて、早い時は始発で出ていくこともある秀治の時間に合わせて起きるようにしている。

今日は何時に帰ってくる?明日は何時に家を出る?日によってまちまちの秀治の勤務に関することが私たちの会話の中心だ。お弁当を作って持たせた日は、いつもありがとう、と言ってくれる。今日も大好きだよ、と言って送り出すとき、秀治はなんとも言えない複雑な笑みを浮かべて出ていく。

追いかけてばかりだ。いつまで経っても、不安で仕方がない。こんな恋、やめてしまえば楽になれるのは間違いない。だけど、楽になったって秀治の居ない毎日は楽しくないに決まっている。
/56ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ