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どうか、その声をもう一度
第4章 愛と罰

いけない。仕事に集中しなければ。きゅっと目を瞑り、小さくかぶりを振った。目を開き、ディスプレイを見つめる。
右手でジョグを操作するとイヤホンを通じて、かわいらしい女の子の高い声が聞こえてくる。今、作業をしているのは数年前に流行ったファンタジー系のアニメーション作品。先月まではスポーツ系のアニメだった。私の仕事は映像作品に字幕をつけていくことだ。
社外の人間との連絡はメールで済むし、ひとりで黙々と作業に打ち込める。口を利かずともほとんど問題ないこの仕事に出会えて本当に良かったと思う。
19時過ぎまで作業を進め、一区切りついたところで帰宅することにした。まだ作業中らしいナツメちゃんに向かってそっと手を振ってから会社を出た。
徒歩数分の駅への道のり。T字路を左に進むと最寄駅。右に進むと秀治と再会したベーカリーカフェがある。遠目からちらりと見てみると店の灯りは落ちているようだった。オープンの初日にナツメちゃんがもらってきた店のチラシにはたしか営業時間は朝の8時から夜7時までと書いてあった気がする。
そそくさと駅に滑り込み、ちょうど到着したばかりの電車に飛び乗った。自宅最寄り駅までは10分程度。通勤時間が短くて済むのはやっぱり楽だ。
5分程度歩いて、自宅マンションに着き、エレベーターに乗り込む。自宅は3階の角部屋だ。玄関の鍵を開け、ドアを引くと空腹を刺激する匂いがふわりと漂ってきた。
「おかえり。今日は煮込みハンバーグ」
廊下を抜け、キッチンに顔を出す。きれいにハンバーグを盛りつけながら、隆也は手を洗っておいで、と微笑んだ。こくりと頷いて、洗面所へ向かう。手を洗ってからリビングへ戻ればダイニングテーブルに並べられた夕食たちが、早く食べて、と言っているようだった。

