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どうか、その声をもう一度
第4章 愛と罰

夕食の後は、ちょっと贅沢なコーヒー豆を手挽きのミルで挽いて飲む。金曜日の夜の習慣だ。新しく買ったエチオピアの豆は少し硬くて挽きづらい。悪戦苦闘しながら豆を挽く私を隆也はにこにこと笑ってみている。この笑みは、あと30分もすれば彼の顔から消え去る。

「今週、なんだか沈んでるみたいだったけどなにかあった?」

静かな声でハンドルを回していた手を止める。ソファーに浅く腰掛け、ローテーブルに被さるような形で豆を挽いていた体勢から首だけをひねって隆也の方を向いた。深く腰掛けていた彼の目は暗く光り、真っ直ぐ私を突き刺している。

なにもないよ。そう言う代わりに首を横に振って、豆を挽く作業を再開する。そう、と小さく言った彼の声は削れていく豆の音が掻き消した。

どことなく中国茶やジャスミンの花の香りのする不思議なコーヒーを楽しんだ後は交代でシャワーを浴びる。今日は隆也の方が先だった。と言うことは私が風呂上りに服を着るのは無駄な行為になるわけだ。

「おいで、沙英」

シャワーを浴び終え、バスタオル一枚を纏って寝室に向かうと、間接照明だけが怪しく灯る室内で彼が私を待ち構えている。ベッドに上がり、膝立ちになった。背後にバスタオルを放ると、それを合図に隆也の左手が私の身体に触れる。手首から肘にかけて走る痛々しい傷跡。目を背けたいのに、そうすることは許されていない。

「手、いつもみたいにして」
「……」

頷いて後ろ手に組む。私の髪にそっと口づけを落とした隆也は慣れた手つきで麻縄を操り、私の身体を縛り上げていく。

最初は首に縄を引っ掛ける。それから正面に結び目を3つ。縛り方の名前を教えられたような気がするけれど、そんなことは忘れてしまった。股に縄をくぐらせ、じりじりと背中を撫でてから首の後ろの縄に通していった。

「もう感じてる?」

左右に分けた縄をなにかの形を作るように動かしながら彼は私の耳を甘く噛んだ。舌を捻じ込まれるとぼわぼわと鈍い反響がくすぐったい。

「ダメだよ、動いたら」

身体を這う縄が後ろに回り縛り終えたかと思うと、今度は別の縄で乳房を強調するようにしながら腕を拘束される。股間で擦れる縄の感触に息が乱れた。だらしなく口を開いて隆也を見つめると、彼は私の首の傷をそっと撫でベッドから下りた。
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