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どうか、その声をもう一度
第6章 崩れたオペラ
「言い訳もできない、かわいそうな沙英。夢も、声も失くした君は俺に愛されることでしか幸せになれないんだよ」
体勢をずらすと彼は私のニットのワンピースをたくし上げた。深いグリーンのケーブル編みのニット。きれいな色だね、よく似合ってる、と微笑んでいた今朝の彼の面影はもうどこにもない。
タイツとショーツを強引に引きずり下ろすと、彼は自分のボトムスの前をくつろげる。私が抵抗しないのを分かっているのだ。冷え切った車内に怪しく漂う隆也の荒い息。ボクサーパンツを下ろせば凶悪にいきり立ったモノが姿を見せた。
「安易に男に近寄るなっていつも言ってるよね。こうやって乱暴されるかもしれないから気を付けなって」
声音の優しさと冷めた表情は酷くアンバランスだった。慣らしてもいない膣口に、ぐっと先端を押し付けられると鈍い痛みが走る。私が眉間に皺を寄せると彼は低く笑った。
「……っ…」
ずぶずぶと押し込まれ、あまりの痛みに叫びだしたくなった。だが、掠れた音が鳴るだけで、私の口からは声を呼べそうなものは出ていかない。悔しさで下唇を噛めば、隆也は強引に己の指を私の口へ捻じ込んでくる。
「やっぱりさ、結婚しようか。沙英の気持ちが整うのを待つって言ったけど、君はこの8年、俺との未来なんて想像してなかったよね」
事実だった。結婚なんて想像できない。子供を産んで、育てていく自信がない。隆也が結婚をほのめかす度に私は同じ言葉を繰り返した。彼は私を繋ぎとめるために、私が想像もしない行動に出ることがある。妊娠を恐れてセックスを拒めば、あろうことか男性側の避妊の為の手術を受けたりもした。それも彼なりの愛情の証明なのだと言う。
いつから彼の行動がおかしくなったのかは思い出せない。学校に上手く馴染むことが出来なかった私を気遣って、勉強を教えてくれたり、ギターを教えてくれた優しいお兄さんだった彼は幻だったのかもしれない。