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どうか、その声をもう一度
第2章 雨の中、邂逅
本土の大学に進学し、たしか3年になった頃、俺と彩夏は再会した。就職活動を始める少し前くらいだった。
なんとなく連絡を取り合うようになって、なんとなく食事に行く回数が増えて。そうしていく内に就活が始まって、その合間を縫って俺たちはお互い思うようにいかない就活の愚痴を言い合ったり、島での暮らしを懐かしんだりを繰り返した。
その頃の俺は、闇雲に沙英を探しながら大学に通い、就活をしてということに疲れていた。心のどこかで、もう沙英に会うことができないと分かっていても、諦めきれず、でも、どうやって探せばよいのかも分からなくなってしまっていた。
『私、昔からずっと秀治のことが好き』
なんとかお互い就職が決まって、お祝いにと飲んだ日に彩夏は酔いで赤く染めた頬をもっと赤くして、震える声で言った。それから、やや唇を尖らせて、俺のことを鈍いと罵った。
確かに、俺はこれっぽっちも彩夏の気持ちに気付いていなかったし、そう言われても仕方がなかった。10人の同級生の中で、女子は彩夏と絵美子の2人だけで、幼い頃から知っている2人のことを俺はただの一度も異性として意識したことがなかった。
俺にとって、初めて異性として意識したのは、沙英だった。沙英によって女性の身体を知り、強烈な性を知ったが、それでも彩夏は彩夏で、異性にはなり得なかった。時には姉のような、時には妹のような存在だったのだ。
『俺、好きな人がいるんだ。だから、彩夏のことは大事だけど気持ちには応えられない』
そんなことを言ったような気がする。そして、そう言いながらも、あの夏以来会うことすら出来ていない沙英のことを「好きな人」と形容したことに違和が膨らんだ。