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臥龍の珠
第2章 梁父の吟
庵の裏手の畑から、ゆるやかに、たゆたうように吟(うた)う、亮の声がかすかに聞こえる。
歩出齊城門
遥望蕩陰里
里中有三墳
累累正相似
問是誰家塚
田彊古冶氏
力能排南山
文能絶地紀
一朝被讒言
二桃殺三士
誰能爲此謀
國相齊晏子
聞いたことのない謡だった。作業を終え、戻ってきた亮に謡について訊ねる。亮は珠の前でもう一度吟じた。
「これは『梁父の吟』といいます。泰山の麓、梁父という丘にまつわる故事を謡ったものです。子供の頃故郷でよく聞いていたので、覚えてしまいました」
「え? でも確か……」
亮の出身は琅邪だと父が言っていた。同じ徐州でも泰山とは少し距離があるはずだ。
「はい。確かに私の生まれは琅邪陽都ですが、すぐに父の任地である泰山に移り、その地で子供時代を過ごしました。ですから泰山は私の第二の故郷だと思っています」
「そうだったのですね」
亮の故郷琅邪陽都と、ここ隆中との間に横たわる遠大な距離。亮の歩いてきた流浪の道筋に珠は思いを馳せた。
歩出齊城門
遥望蕩陰里
里中有三墳
累累正相似
問是誰家塚
田彊古冶氏
力能排南山
文能絶地紀
一朝被讒言
二桃殺三士
誰能爲此謀
國相齊晏子
聞いたことのない謡だった。作業を終え、戻ってきた亮に謡について訊ねる。亮は珠の前でもう一度吟じた。
「これは『梁父の吟』といいます。泰山の麓、梁父という丘にまつわる故事を謡ったものです。子供の頃故郷でよく聞いていたので、覚えてしまいました」
「え? でも確か……」
亮の出身は琅邪だと父が言っていた。同じ徐州でも泰山とは少し距離があるはずだ。
「はい。確かに私の生まれは琅邪陽都ですが、すぐに父の任地である泰山に移り、その地で子供時代を過ごしました。ですから泰山は私の第二の故郷だと思っています」
「そうだったのですね」
亮の故郷琅邪陽都と、ここ隆中との間に横たわる遠大な距離。亮の歩いてきた流浪の道筋に珠は思いを馳せた。