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臥龍の珠
第2章 梁父の吟
 友人の徐庶が酒と肴を携え、ふらりと庵に現れた。珠が案内しようとするのを「勝手知ったる家だから」と断り、奥の部屋へ向かう。

「やあ、孔明」

 亮は膝を立て顎をのせ、長い足を抱え込むようにして座っていた。あまり行儀のよろしくないその姿勢が、何かを考えているときの亮のいつもの姿だった。

「元直。いきなり声をかけないでください」
「それは無理だな。前もって声をかけることを知らせろとでも言うのかい?」
「確かに」

 亮は頭をかいた。抱えた足を戻し、年上の友人に向き直る。

「で、ご用件は」
「お前と雪見酒を洒落こみに来ただけさ」

 窓を開け、うっすらと積もった雪を眺めながら、しばし杯を傾ける。雪と同じ白い酒はこの辺りで作られた地酒だった。

「酒を飲みに来ただけではないのでしょう?」

 亮は徐庶の杯に酒を注いだ。徐庶は杯を干し、卓の上に置いた。カタンと乾いた硬質な音が響く。

「君にはすべてお見通しってわけか」
「私ならこんな足元の悪い日に、わざわざ外に出たいと思いませんね」

 雪の上には点々と徐庶の足跡が続いている。この庵は徐庶の家からそれほど遠いわけではないが、雪をおしてまで来るほど、徐庶は酒好きでもない。
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