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臥龍の珠
第3章 三顧の礼
「おはようございます。朝餉の支度は整っておりますよ」
日が昇って数刻が過ぎ、亮が寝室から姿を現した。忙しく動き回る珠を目にした亮は、決まり悪げに頭を掻いた。
「……寝過ごしてしまいましたか」
「いいえ。何となく早くに目覚めてしまって……」
「そうでしたか。支度をしていただきありがとうございます」
続けて姿を見せた均と三人で朝食の卓を囲む。そして食後の茶を口にしながら、亮は二人に告げた。
「今日はおそらく左将軍がお見えになるでしょう」
亮の口調には普段とは異なる緊張感が感じられる。珠は首を傾げ、亮に訊ねた。
「孔明様は左将軍様にお仕えになるのですか?」
「それは会ってみないことにはわかりません。ですが私の体調の回復を待っていたということは、通り一遍の挨拶だけではないということです」
「兄上の元へは参られないのですか?」
亮と均の兄、瑾が江東の孫権に仕えたという知らせが、先日兄からの手紙でもたらされていた。孫権は孫堅の次男で、不慮の死を遂げた長男孫策の後を継いだ人物だ。瑾の口利きならば弟である亮も仕官がかなうはずだ。
「乱世ですから」
亮は弟に優しい目を向けた。杖ともたのむ叔父を亡くしたあと、兄弟寄り添って生きてきた。そろそろ二十歳を迎えようという弟に、まるで幼子を諭すように言い聞かせる。
「乱世ですから、一族はできる限り分散した方がよいのです。動乱の世を我が諸葛家が生き延びてゆくために」
均は兄の言葉に頷いた。兄はいつも正しく、兄の言うことに間違いはない。均は長兄である瑾の顔を覚えていなかった。均が物心つく前に父は死亡し、瑾は継母を連れ継母の故郷江東とへ行き、幼かった亮と均は荊州の叔父を頼ったからだ。いつか瑾に会ってみたいと、均は思っていた。
日が昇って数刻が過ぎ、亮が寝室から姿を現した。忙しく動き回る珠を目にした亮は、決まり悪げに頭を掻いた。
「……寝過ごしてしまいましたか」
「いいえ。何となく早くに目覚めてしまって……」
「そうでしたか。支度をしていただきありがとうございます」
続けて姿を見せた均と三人で朝食の卓を囲む。そして食後の茶を口にしながら、亮は二人に告げた。
「今日はおそらく左将軍がお見えになるでしょう」
亮の口調には普段とは異なる緊張感が感じられる。珠は首を傾げ、亮に訊ねた。
「孔明様は左将軍様にお仕えになるのですか?」
「それは会ってみないことにはわかりません。ですが私の体調の回復を待っていたということは、通り一遍の挨拶だけではないということです」
「兄上の元へは参られないのですか?」
亮と均の兄、瑾が江東の孫権に仕えたという知らせが、先日兄からの手紙でもたらされていた。孫権は孫堅の次男で、不慮の死を遂げた長男孫策の後を継いだ人物だ。瑾の口利きならば弟である亮も仕官がかなうはずだ。
「乱世ですから」
亮は弟に優しい目を向けた。杖ともたのむ叔父を亡くしたあと、兄弟寄り添って生きてきた。そろそろ二十歳を迎えようという弟に、まるで幼子を諭すように言い聞かせる。
「乱世ですから、一族はできる限り分散した方がよいのです。動乱の世を我が諸葛家が生き延びてゆくために」
均は兄の言葉に頷いた。兄はいつも正しく、兄の言うことに間違いはない。均は長兄である瑾の顔を覚えていなかった。均が物心つく前に父は死亡し、瑾は継母を連れ継母の故郷江東とへ行き、幼かった亮と均は荊州の叔父を頼ったからだ。いつか瑾に会ってみたいと、均は思っていた。