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臥龍の珠
第3章 三顧の礼
 亮は卓の上に地図を広げた。地図には主要な川と都市の場所が記されている。

「今の将軍に一番必要な物は、拠って立つべき土地です」
「土地……」

 劉備は意外そうな顔をした。当座の敵と戦うことには注力してきたが、本拠を得ることなど考えたことがなかった。

「将軍は現在景升公の客分です。もし、景升公の元にいられなくなった場合、新たに身を寄せる先を求めて流浪することになるでしょう。ですが本拠とする土地があれば、自ら群雄の一人として名乗りをあげることができます」

 劉備は広げられた地図に目を落とした。亮は手にした竹棒で大きく円を描いた。

「河北には曹操が、江東には孫権がいます。ここを切り取るのは正直今の将軍には難しいでしょう。……では将軍ならばどこを切り取られますか?」

 亮は劉備に問いかけた。地図の東には劉備が進出できる余地はない。ならば。

「荊州、か……」

 荊州は現在劉表の支配地となっている。
 だが……。

「このところ景升公の健康が優れないのは周知の事実です。今景升公が亡くなれば跡目争いが起こるのも必定。その隙を突いて荊州に覇を唱えるのです」

 亮はさらに言葉を継いだ。双眸が冷たい熱を帯びたように感じられる。

 劉表には先妻の産んだ嫡男と、後妻の産んだ次男の二人の男子がいた。そして後妻は荊州の名族でもある重臣蔡瑁の妹だ。劉表の死後、蔡瑁らが嫡男を差し置いて次男を擁立しようとするのが目に見えていた。

「荊州、さらに隣の益州まで加えれば、曹操や孫権に肩を並べることもできましょう。まずは中原を三分割し、彼らと比肩する力を手に入れることを目標とするべきです」

 劉備は亮の熱に圧倒され、ただ頷いた。これが名高い「臥龍」の力なのだと、納得するしかなかった。

 今まさに、世にいう「天下三分の計」が示された瞬間だった。
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