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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第29章 マイスターの報酬
「ぅ、ん…」
目隠しされた後、姫は「彼」に手を引かれて、違う椅子に座らせられました。
そして、姫の体に覆いかぶさるようにして、「彼」が姫に口づけてきました。

(ん…ここは、長椅子…かしら)

二人の位置からすると、どうやらここは長椅子らしいと姫が考える間にも、唇は何度か、軽く触れては離れてを繰り返しておりました。

「ん、んっ」
姫がそれに馴染んだ頃に、唇を割って、舌が口の中に入り込んできました。

(…あ、ん…?)

舌を絡められた姫は、あることに気が付きました。
気が付いたことを確かめようと姫が舌を動かすと、「彼」の舌に掬い上げられて、裏側を擽られました。
「ん!ぅ…んっ…」
(…やっぱり…オレンジの、味がする…)

舌を伸ばして「彼」の上唇の辺りを舐めると、微かに甘酸っぱく感じられました。

(もっと…もっと、たくさん、)

姫が口づけに夢中になっている間、髪を撫で続けていた「彼」の手が、背中の方にゆっくり滑っていきました。

「あ、」
(や…どうして…なんだか、すごく、いい気持ち…)
服を身に着けたままなのに、背中からお尻にかけてを撫でられるのが、蕩けそうに気持ちが良いのです。
姫はうっとりして、「彼」の首に手を回して、抱き付きました。
すると、「彼」の片手が姫の背中を抱き返し、もう片方の手が髪を撫でました。

(…なんだか、自分が、オレンジになったみたい…)

潰れないぎりぎりの柔らかさで「彼」の手の中に納まっていたオレンジを思い出して、姫は心臓まで掴まれた様な気がしました。

(目隠ししたって、誤魔化されたりなんか、しないんだから…だって、匂いも、味も、手も)

匂いも、味も、触れ方も。
目隠しされてからもずっと、「彼」が姫に与える何もかもが、今ここに居るのが「誰」なのかと言うことを、全身で姫に教えておりました。

(なのに…「ここに居るのはあいつだ」なんて…どうして)

「…ふ?…は、」
口づけが、不意に終わりました。
姫が吐息を吐いた瞬間に、髪を撫でていた手が無くなって、胸がふわっと包まれました。

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