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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第31章 オレンジの夜
(…すっ…ごく…)
ひとつ思い出すと、次々にいろいろなことが思い出されます。

(すっ…ごくっ…、はずかしいっ…)
姫は真っ赤になって、手近にあったクッションをぎゅっと抱き込みました。

(でもっ…すごく……気持ち良…っっ)
姫はクッションに顔をうずめて、うううー!と叫びました。

(あれ…?だけど、くすぐったくならなかったよね?)
くすぐったさを感じた記憶も、笑った記憶もありません。

(うー…んと…あ、触んなかったのかも)
見えなかったのではっきりとは分かりませんが、肌に直接手で触れたような感じは、無かったように思いました。

(試すって言ったけど…忘れちゃったのかな)

姫はクッションから顔を上げて、ほうっと溜息をつきました。
(…でも)
(『これを外したら、全部忘れろ』って言ってた)
(あのことは、サクナにとっては、忘れてほしいこと、なんだ…)

姫はようやく立ち上がって、鏡台の引き出しを開けてみました。
引き出しの中には、中身の入っていないオレンジの籠が、新しく加えらえておりました。
それと、もうひとつ。
黄色いリボンが結ばれた見覚えの無いガラス瓶が、空っぽのまま、スライスしたオレンジの傍に置いてありました。

「…サクナ…」

試していた間、呼びたくても呼ぶことが出来なかった名前を呼ぶと、胸からお腹の奥にかけてのあたりがきゅっとして、甘く疼く様な感じがしました。

(忘れるとか、タンム様だと思うとか…出来るわけ、ないじゃない…)

籠と瓶を順番に手に取って眺めながら、姫は、次の約束をしていないことを思い出しました。

(次は、また、明後日かな…)

そう思いながら姫は、籠と瓶を元の場所に戻して、引き出しを閉めました。



その夜、姫は、なかなか寝付けませんでした。
昨日までは安眠できた香りなのに、今日の姫のことは、眠らせまいとしているかのように。
部屋中に濃く漂い続けるオレンジの香りに、姫はいつまでも気怠い体を持て余し、寝床の中で何度も寝返りを打っておりました。
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