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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第33章 去りゆく人と置き土産
「ううむ…」
その話を聞いて、ハンダマ王子は考え込みました。
タンム卿が一旦この地を離れざるを得なくなった今、姉にとっては、この上も無く好条件のーー都合が良すぎるほどのお話です。
卿が帰郷している間に良い話があればそれを受けても差し支えなく、その間に特に良い話が無ければ、またタンム卿が姉と見合いの続きをしてくださると言うのですから。

「姉様は、どのように?」
王子はそれまで黙って話を聞いていた姉に尋ねました。

「私は…私は、タンム様のご意向に、従います」

スグリ姫は、内心、たいそう驚いておりました。
姫は、自分の勝手な破談の申し出を、タンム卿がそのままハンダマ王子に話すものと思って居りました。なのに、見合いの中断は卿の一方的な事情であるということになっていて、姫はタンム卿を待つも待たぬも、自由に決めてもよいと言われたも同然だったからです。

(タンム様は、ほんとうに、お優しいのだわ…私の御相手には、もったいないくらいのお方、)

姫の胸はタンム卿への親しみと感謝でいっぱいになり、ほんのりと温かくなりました。

「御申し出、有り難く、お受け致します。心から感謝致します、タンム様。」

「それでは、タンム卿。御言葉に甘えて、そのように計らわせて頂きます」

姉の言葉を聞いたハンダマ王子は、姉の婚約が今回も流れたことを残念に思いながらも、タンム卿の申し出を承諾しました。

「ありがとうございます。出来れば再びお会いできることを、心から願っておりますよ」

タンム卿は口許だけで笑顔を作りました。
「それにしても、この部屋はいい香りがしますね。まるでオレンジに周り中を囲まれているような錯覚さえ起こしそうですよ」

そう言うとタンム卿は、テーブルの上のオレンジが盛られた果物籠に手を伸ばしました。
「…おや?これは、」

タンム卿はスグリ姫のほうをちらりと見ると、果物籠の中に手を入れて、オレンジの陰から何かを取り出しました。
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