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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第33章 去りゆく人と置き土産
「タンム卿、それは…何ですかな?」
「タンム様のお郷の、緑のリンゴですわよね?」
タンム卿が取り出した物を見て、ハンダマ王子は不思議そうに言い、レンブ姫は目を輝かせました。
「ええ。良くご存知ですね、レンブ姫」
タンム卿は懐からナイフを取り出し、ぱちんと開きました。
「お暇する前にひとつ、我が故郷の名物を、置き土産代わりにお見せしましょう」
そして、ナイフをリンゴに当てると、見事な手付きで刻み始めました。
「おお、これは、なんと…」
唖然としている一堂の前で、あっという間に、リンゴは白鳥に姿を変えました。
「なんと、見事なものですな…」
「ええ!こんなの、初めて見ましたわ!」
ハンダマ王子は目を見開き、レンブ姫は手を叩いて喜んでいます。
後ろに控えているバンシルは、平然とした顔のまま。
そして。
スグリ姫はその場に凍りついたように、表情ひとつさえ、動かせなくなっておりました。
(タンム様も、白鳥を…タンム様も、果物細工をなさるんだ…)
(果物細工をなさる「手」を、タンム様も、持っている…なのに、私は)
一言も口を開かず呆然と白鳥を眺める姫の様子に、誰も気付かないようでした。
「お褒めの言葉を、ありがとうございます」
タンム卿は白鳥をハンダマ王子に手渡すと、紅茶を一口飲みました。
「果物細工は、我が故郷の男子の嗜みなんですよ」
「女の方は、なさらないんですの?」
ハンダマ王子と一緒に白鳥を見ていたレンブ姫が質問しました。
「ええ。女性や高貴な方は、作る側ではなく、専ら受け取る側なのです。こういう飾り切りを持て成しの時に飾ったり、乾かして瓶詰めにしたものを、愛する人に贈ったりするのですよ」
「タンム様のお郷の、緑のリンゴですわよね?」
タンム卿が取り出した物を見て、ハンダマ王子は不思議そうに言い、レンブ姫は目を輝かせました。
「ええ。良くご存知ですね、レンブ姫」
タンム卿は懐からナイフを取り出し、ぱちんと開きました。
「お暇する前にひとつ、我が故郷の名物を、置き土産代わりにお見せしましょう」
そして、ナイフをリンゴに当てると、見事な手付きで刻み始めました。
「おお、これは、なんと…」
唖然としている一堂の前で、あっという間に、リンゴは白鳥に姿を変えました。
「なんと、見事なものですな…」
「ええ!こんなの、初めて見ましたわ!」
ハンダマ王子は目を見開き、レンブ姫は手を叩いて喜んでいます。
後ろに控えているバンシルは、平然とした顔のまま。
そして。
スグリ姫はその場に凍りついたように、表情ひとつさえ、動かせなくなっておりました。
(タンム様も、白鳥を…タンム様も、果物細工をなさるんだ…)
(果物細工をなさる「手」を、タンム様も、持っている…なのに、私は)
一言も口を開かず呆然と白鳥を眺める姫の様子に、誰も気付かないようでした。
「お褒めの言葉を、ありがとうございます」
タンム卿は白鳥をハンダマ王子に手渡すと、紅茶を一口飲みました。
「果物細工は、我が故郷の男子の嗜みなんですよ」
「女の方は、なさらないんですの?」
ハンダマ王子と一緒に白鳥を見ていたレンブ姫が質問しました。
「ええ。女性や高貴な方は、作る側ではなく、専ら受け取る側なのです。こういう飾り切りを持て成しの時に飾ったり、乾かして瓶詰めにしたものを、愛する人に贈ったりするのですよ」