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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第33章 去りゆく人と置き土産
「…え?」
「まあ!愛する方に贈るのですか?」
スグリ姫の上げた小さな驚きの声は、レンブ姫のはしゃぐ声の陰に隠れて、他の人には聞こえませんでした。
「ええ。果物を干して、香りを瓶に詰めて贈るのです。自分が傍に居ない時でも、それを香った思う相手が、自分のことを思い出すように、と」
「なんて素敵なんでしょう…!」
レンブ姫の憧れの眼差しを受けながら、タンム卿の話は、続きます。
「そのために、男子は身分を問わず、物心付くか付かないかの年頃から、細工を教わり始めるのです。技を競う試合も行われているのですよ」
「おお、試合までとは…!それは、果物の名産地ならではの事ですね」
周りでは果物細工を囲んでの話が弾んでおりましたが、スグリ姫にはそれらの会話が、頭に入ってきませんでした。
タンム卿の明かした話の数々が、頭の中をぐるぐる回っていたからです。
「試合があっても、タンム様を負かすのは難しそうですわね?だって、こんなに素晴らしいものをお作りになれるのですから」
「いいえ、レンブ姫」
レンブ姫の賞賛に、タンム卿は首を振りました。
「実は私は残念ながら、一度も優勝したことが無いのです」
「まあ!」
「私は万年二位なのですよ。同世代に、どんなことをしても敵わない天才がいるのです」
「ほう…」
タンム卿の話に、ハンダマ王子とレンブ姫は、すっかり聞き入っています。
「認めるのは癪なのですが、彼には一生勝てないと思いますね。彼は細工が上手いだけでなく、目利きの天才でもあるものですから。
初めて会った時から愛想のひとつも無い男に、尽く負かされ続けまして…今では彼と競うような無駄な事は、止めておこうと思うようになりました」
タンム卿はそこで言葉を切ると、スグリ姫の方に視線を寄越し、姫に聞かせるように、こう言いました。
「本気になった彼と競ったら、必ず私が負けるでしょう。…たとえ、何を競ったとしても。」
そこまでで、思わず部屋を飛び出したので。
その後残された一同でどんな会話が交わされたのか、スグリ姫には、分かりませんでした。
「まあ!愛する方に贈るのですか?」
スグリ姫の上げた小さな驚きの声は、レンブ姫のはしゃぐ声の陰に隠れて、他の人には聞こえませんでした。
「ええ。果物を干して、香りを瓶に詰めて贈るのです。自分が傍に居ない時でも、それを香った思う相手が、自分のことを思い出すように、と」
「なんて素敵なんでしょう…!」
レンブ姫の憧れの眼差しを受けながら、タンム卿の話は、続きます。
「そのために、男子は身分を問わず、物心付くか付かないかの年頃から、細工を教わり始めるのです。技を競う試合も行われているのですよ」
「おお、試合までとは…!それは、果物の名産地ならではの事ですね」
周りでは果物細工を囲んでの話が弾んでおりましたが、スグリ姫にはそれらの会話が、頭に入ってきませんでした。
タンム卿の明かした話の数々が、頭の中をぐるぐる回っていたからです。
「試合があっても、タンム様を負かすのは難しそうですわね?だって、こんなに素晴らしいものをお作りになれるのですから」
「いいえ、レンブ姫」
レンブ姫の賞賛に、タンム卿は首を振りました。
「実は私は残念ながら、一度も優勝したことが無いのです」
「まあ!」
「私は万年二位なのですよ。同世代に、どんなことをしても敵わない天才がいるのです」
「ほう…」
タンム卿の話に、ハンダマ王子とレンブ姫は、すっかり聞き入っています。
「認めるのは癪なのですが、彼には一生勝てないと思いますね。彼は細工が上手いだけでなく、目利きの天才でもあるものですから。
初めて会った時から愛想のひとつも無い男に、尽く負かされ続けまして…今では彼と競うような無駄な事は、止めておこうと思うようになりました」
タンム卿はそこで言葉を切ると、スグリ姫の方に視線を寄越し、姫に聞かせるように、こう言いました。
「本気になった彼と競ったら、必ず私が負けるでしょう。…たとえ、何を競ったとしても。」
そこまでで、思わず部屋を飛び出したので。
その後残された一同でどんな会話が交わされたのか、スグリ姫には、分かりませんでした。