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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第34章 目利きの落着
「はい?」

コンコン、とノックの音が響き、少し間を置いて、客間の扉が内側から開かれました。

「お前…見合いじゃなかったのか、」
扉の向こうに居たスグリ姫を見たこの部屋の主であるサクナは、ドアを開けた己の迂闊さに、舌打ちしました。

「…お話が、あるの。」

「俺には無ぇな」

「お願い。…聞いてくれるまで、動かない。」
それを聞いたサクナは、不機嫌そうな顔をさらにしかめました。

「…何だ。手短にしてくれ」
帰り支度で忙しいんでな、と付け加えられた言葉に、姫の顔が一瞬歪みました。

「お願い。もう一回試して」
「おい!」

サクナは慌てて辺りを見回すと、姫を部屋に引き入れて扉を閉めました。
姫のその「お願い」は、誰かに聞かれて良いような話ではありません。

「もう一回だけ、試して。あれは、『無かったこと』なんでしょう?だったら、『誰か』としてじゃなく、サクナとしてもう一度、私を試して」
部屋に入っても変わらずに、姫は「お願い」を、言い募りました。

「断る。誰かの邪魔は、二度としねぇ」
「…タンム様とのお見合いは、破談になりました」

「なんだって?!まさか、昨日のあれのせいで」
「違うの。私のせいなの。何度お手合わせしてもダメだって、分かったの」
タンム卿は忍耐強く思い遣りがあり、優しい方でした。
その上、果物細工を作ることの出来る、繊細な手まで持っていたのです。
そんな方なのに、姫はどうしても、そちらに行くことができませんでした。
姫が今、自分を試して欲しいと願うのは、ただ一人だけです。

「果物細工は、女には教えちゃいけないんでしょう?なんで見せてくれて、教えてくれたの?なんで、瓶詰めをくれたの?」
そこで姫は、一息深呼吸をしました。
「それに特別な意味があるって言わなかったのは、どうして?」
「お前っ?!誰かに何か聞いたのか」
「タンム様に聞いたわ」
「なっ…」

サクナは、目を見開いて絶句しました。

「忘れろって言うくせに、なんで、私に…あんな風に、触るの?」

涙が頬に零れ落ち、一旦言葉が止まりました。
姫はそれを手で拭うと、思い切ったように、続けました。

「だから、ちょっとでも!ちょっとでも、私のこと嫌いじゃないなら、サクナのままで、私を試してっ」

「断る。」

姫の言葉の途中から固く目を閉じて聴いていたサクナは、目を開けぬまま、言いました。
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