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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第7章 「ツグミ」と黒い魔女
大臣が口にした「ツグミ」という名は、この城では久しく呼ばれていない呼び名でした。

この国の魔女の中には、公的に魔女を職としているものもおりましたが、そうでない、表には出てこない存在の魔女たちも居りました。
それが、「黒い魔女」と呼ばれる者たちです。

「ツグミ」は、黒い魔女の家に生まれました。
ところが、正式な魔女になる前に偶然起こった出来事をきっかけとして、黒い魔女の道には入らないことを決め、その後、城に上がったのです。

影のような存在である黒い魔女の家に育ったツグミを、初めは悪く言うものもおりました。しかし、ツグミ自身の素直さや優しさ、控えめで細やかな気遣いなどによって、数年たたぬうちにツグミを悪く言う者は、居なくなりました。
やがてツグミは、求婚されて嫁ぎ、その後、子にも恵まれ、幸せに暮らしています。
今では「ツグミ」という名や過去を知るものも少なくなりました。

白紙の書状はその「ツグミ」宛のものだと、大臣は言いました。

「ツグミ宛てだろうと言う理由の一つは、この書状自身だ。私も、長いことこの職に就いてきた。魔女の扱う書であれば、少しは読むことが出来る。よしんば読めなくとも、魔女の手によるものだと、感じることくらいは出来る」
そう言って、大臣は副大臣の方に書状を渡して寄越しました。

「だが、これには全く何も感じられない。不自然な位、感じられないのだ」
大臣は、またひとつ溜息を吐きました。

「だからと言って、その・・・それだけでは、そうとは、限らないのでは」
副大臣は、口篭りました。

「もうひとつ、理由があるのだよ」
大臣は書状のある部分を副大臣に示して、とんとん、と軽く指先で音を立てました。
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