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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第36章 招かざる客
コンコン、というノックの音が、夜も更けた部屋に響きました。
それは小さな音でしたが、鋭い響きを持っておりました。
姫を抱き込んでうとうとしていたサクナの耳は、その小さな音を拾いました。
(…空耳…じゃねぇな…)
コンコン。
コンコン。
ノックの音はずっと同じ大きさで、同じ調子で、時間を置いて、続いています。
(クッソ…こっちは初夜なんだぞ、ちょっとぐらい放っといちゃあ……くれねぇか…)
昨日の午後に姫がここにやって来てから、二人とも、一歩も部屋を出ていません。
その間に外がどんなことになっているかは分かりませんが、城の姫が何時間も行方も分からず姿も見せないと言うのは、どうみても異常事態でしょう。
サクナは遣る瀬ない気持ちで、腕の中の姫を見ました。
「…どこにも、やらねぇからな…」
小さく呟いて髪を撫でると、ぅん、と微かに身じろぎして、すり、と擦り寄ってきました。
そこに口づけると、また、コンコン、というノックの音が聞こえました。
サクナは諦めて、姫を起こさないように、音を立てないように気をつけながら、するりと寝台を抜け出しました。
そして、落ちていた服を拾い、見苦しくない程度に身に着けました。
それから、姫が起きていないことを確かめて、寒くないように布団の上を、ぽんぽん、と叩き。
立ち上がって、ひっそりと足音を立てずに、扉に近付きました。
コンコン。
コンコン。
「…誰だ。」
サクナは、やっと聞こえる程度に声を潜めて、扉の向こうに問いました。