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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第36章 招かざる客
「私ですよ、『マイスター』。開けてくださいな」
聞こえてきた声と、この城の中では三人しか知らないその呼び名に、サクナははっとしました。
「バンシルか?」
「ええ、そうですよ。…居ますよね?そこに。」
バンシルは、『誰が』という主語を省いて、サクナに尋ねました。
「居ないなら結構ですが、そこに居るなら、開けないと厄介なことになりますよ」
開けといたほうが身の為です、と言われ、サクナはちらっと寝台を見ました。
そうして覚悟を決めると、鍵をかちりと回して、扉を開けました。
「こんばんは、『マイスター様』。」
「…止めろ、それ。」
「他に、何か言うことは?」
バンシルは部屋の中に滑るように入って扉を閉め、鍵を掛けると、サクナを睨み付けました。
「騒ぎにならないように走り回ってあれこれ適当に誤魔化してようやく収めてその上こんな時間にこんなとこにまで来て差し上げた親切な私に、何か、言うことは無いんですか?」
「…悪かった。済まない。許せ。」
「まあ、あんただけのせいじゃないですけどね。全く、子どもの頃からずーっと、全然後先考えない性質なんだから」
バンシルは部屋を見回して、寝台で目を止めました。
傍らの床に、見覚えのある上着とスカートが散らばっています。
「あそこに寝てるんですね?」
目で促すと、サクナは言いにくそうに言いました。
「あー…寝てる…と、思うぞ…?」
「なんですかその歯切れの悪い返事」
「調子に乗ってイかせ過ぎた。寝てるんだとは思うが、もしかすると気を失ってるのかも知れねえ」
「はあ?」
「…悪い。他にどう言ったら良いのか分からねえ。けど、それこそ俺だけのせいじゃねえ、」
何もかも全部いちいち馬鹿可愛いってのは恐ろしいよな、などと、ぶつぶつ言っています。
「ええと、下世話で済みませんが、大事なことなんで確認しますけど。最後まで、行ったんですか?」
「お前…女の癖に何聞いて来んだよ…」
サクナは、心底嫌そうな顔をしました。