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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第23章 はじめての果物細工講習
「…マイスター…」
「何だ?」
「マイスターの将来のために、一言いいですか?」
「将来って何だ」
「弟子は、もうちょっと分かりやすく褒めてもいいのではないかと思います」
「分かりやすく?」
「はい。今の褒め方だと、分かりにくいです」

(そんな顔して褒められても)
サクナは今や「不機嫌」に「訝しげ」が加わって、子どもが見たらもれなく泣きそうな形相になっています。
(…怖いだけだよ、うん)

「…将来弟子を持ったとき、逃げられますよ」
「う、」
弟子に逃げられる、という言葉に、サクナの顔がショック方向に緩みました。
姫は、弟子は褒めて育てなくては、などと、余計な追い討ちを力説しています。

「分かりやすく褒める、つったって…褒美なんか、持ってきて無ぇぞ」
不機嫌よりはいくらかマシな困惑顔になったサクナは、姫にぶつぶつ言いました。

「大丈夫大丈夫。物じゃなくても、『撫で撫で』で。」
「は?」
「はい。撫で撫では、動物や子どもにも分かる、最も分かりやすい『褒め』の形ですよ、マイスター」
姫は自信満々で言いました。
姫自身が小さい頃から、撫でられるのが好きだったからです。
16になって、素手で体を触られると笑い転げる特異体質になってからも、手と、髪の毛のある頭は、触られても平気な場所でした。
人の手そのままのぬくもりを安心して感じられる場所はそこだけになってしまった姫にとって、「撫でられる」というのは、とても嬉しい、ご褒美と言っていいくらいのものだったのです。

「ってことで、今から練習しておきましょう、マイスター!ひとつ、撫で撫でお願いします!」
ほらほら、と頭を向けられたサクナは、一瞬判断に迷いましたが。
姫は絶対あきらめないと言うことを、サクナはこの二日で、たんまり学習しておりました。
それに、今この時間は弟子であるとはいえ、もとは自分など気安く近づけないような存在なのですから、無碍に断ることも躊躇われます。
タンム卿の婚約者の頭を撫でるのはいかがなものかと一瞬思いましたが、講習の際には弟子として扱うという取り決めをしたのは自分です。
弟子は弟子として扱わなくてはなりません。
「…分かった」
サクナはそう言うと、撫で撫で。という抑揚の無い声とともに、姫の絹糸のような茶色の髪を撫でました。
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