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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第25章 二度目の果物細工講習
「…バンシル。タンム様は、私が特異体質を克服するために、あれこれ工夫してくださっているのです」
髪を結っていたバンシルは、そういう言い方もできますね、と肩をすくめました。

「うん。次こそ頑張る!タンム様がまたなんか考えてくれたみたいだし」
顎をさすりながら苦笑いして姫の蛮行を許してくれたタンム卿は、次回はまた違う思い付きを試しましょうと、次回の予約と指示をしながら、姫を部屋まで送ってくださったのです。

「まあ、何にせよ、その忍耐と諦めの悪さは素晴らしいですよね。普通二回続けて顎に蹴りと頭突き食らったら、いくらなんでも三度目はお断りですよ」
「うっ」

寛容なタンム卿は、顎に二回連続で姫の「特異体質」の結果を喰らったことについて、「別の場所に二回頂くより目立たないから、むしろ良かった」とまで言って下さったのです。

「うう…次回は!次回こそ!タンム様のお心に答えねば…!次は笑わない!笑わないで、最後までいくぞー!!」
「はいはい、そうですね。はい、出来ました」
バンシルは姫の言葉を聞き流して髪を結い上げ、仕上げに後れ毛を撫で付けました。

「わーい!ありがと、バンシル!」
「今日も、午後からですか?」

姫が結い上がった髪を鏡で確認していると、道具を片付けていたバンシルがいいました。

「…うん」
「あら。もう飽きたんですか、果物細工」
綺麗に結えた髪に満足そうだった姫の表情がほんの少しだけ曇ったのを、バンシルは見逃しませんでした。

「ううん、全然。今日も楽しみにしてるわよー」
バンシルの言葉に、姫は笑顔を作って答えました。が。
(そう、すっごく楽しみ。楽しみなのは確かなんだけど、なんだろう…なんだか、)

姫は鏡台の引き出しを、少しだけ空けました。
そこに収められたリンゴの細工たちは、うまく乾いてきて、すこし大きさが縮んでおりました。

(正直言ってお見合いより果物細工の方が、楽しみなのよ…楽しみなんだけど)

触ってみると、作ったときのみずみずしい固さは無くなって、表面が柔らかく、しっとりしています。

(…なんだか…、お見合いの方が、気楽なのよね…)
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