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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第28章 三度目の果物細工講習
「落ち着け。泣くな」
サクナが躊躇いながら姫の髪を撫でると、しゃくりあげるのが止まりました。
「ゆっくり、分かるように話せ。…何を、我慢できなかったんだ?」
「笑っちゃう、の・・・」
近付くとやっと聞こえるような小さな声が、手で顔を覆っている隙間から聞こえました。

「…は?ワラッチャウ?」
とっさに意味が分からず、サクナは聞き返しました。

「笑っちゃうの…笑っちゃうの!!!手で触られるとくすぐったくて、ものすごく、笑っちゃう、の」
我慢できないんだよお、と、子どものように涙声を上げました。

「えーと…何言ってんだ?」
「だから!裸に、手で触られると、くすぐったくて、笑っちゃうの!だめなのだめなのだめなの、もう、ほんっとに、だめなの!」

姫の答えを聞いたサクナは、頭を殴られたような気がしました。

(姫が、裸を、手で触られると、笑うってことは、)

(裸の姫に、誰かの手が、触ってるってことだ、)

(俺は、その「誰か」じゃない、)

(ただの果物園主で、付き添いで、果実細工の教えを請われただけだ)


しばらくの間、しんとした部屋に、姫のぐずぐず言う声だけが響いていました。
すると、サクナが突然立ち上がり、部屋の扉の方に歩き始めました。

「かえっ…ちゃう、の?」
(もう、嫌に、なっちゃったの?)
扉に向かうサクナの姿が、新たに湧いてきた涙でぼやけました。
ぼやけた目で見ていると、かちり、と耳が小さな金属音を拾い、サクナがこちらに戻ってきました。

「サクナ?」
「…試させろ。」
「ふぇ?」

サクナは椅子に座った姫の前に跪いて、低くはっきりとした声で言いました。

「試させろ。俺がお前に触って、笑いたくなるかどうか」

それが講義への謝礼だ。と言う声は、耳のすぐ傍で聞こえました。
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